第77話 エルフの誇り

 フィーナが魔法を?

 フィーナの使える魔法の属性は水だ。もしかして炎を消すつもりなのか?


「いくわよ! 水津波魔法アクアウェーブ

  フィーナが魔法を解き放つと、炎に向かって水の津波が襲いかかる。だが津波が襲いかかったのは炎だけではなかった。

  水津波魔法アクアウェーブはフィーナを中心に全方位に放たれていたのだ。

 当然横にいた俺とノアや、エルフ達はびしょ濡れになってしまった。


「フィーナ⋯⋯」


 俺は恨めしそうにフィーナへと視線を向ける。


「悪かったわ。でもこれで頭が冷えたでしょ」

「えっ?」


 俺は別に頭に血が昇っていたわけじゃない。まあフィーナが傾国の姫と言われた時は腹が立ったけど。

 頭を冷やしたのは俺ではなくエルフ達のことだ。

 その証拠に先程まで右往左往していたエルフ達が、水をかけられたことで、動きを止めていた。


「みんな聞いて! 川まで水を取りに行っても間に合わないし、その程度の水で消せる程、火は小さくないわ! それより風魔法で周囲の木を切って、これ以上燃え広がらないようにしてほしいの」


 フィーナは適切な指示を下しているが、後はエルフ達が話を聞いてくれるかどうか。


「けどそれだけではこの炎は消えないぞ! どうするんだ?」


 エルフ達の視線がフィーナへと集まる。

 確かにこの炎を消さなければ問題解決にはならない。

 この炎を消すには、膨大な水が必要になるだろう。

 だけどそのような問題などフィーナには関係なかった。


「私が水魔法を使って消すわ」

「み、水魔法⋯⋯」


 エルフ達に取っては認められない水魔法。だけど今この状況で一番頼れるのはフィーナで間違いないだろう。


「⋯⋯わかった。頼む⋯⋯」

「任せて」


 エルフ達に取って何より大切な神樹の危機だ。己のプライドと比べてどちらが大切かなんて明白だ。エルフ達はフィーナに頭を下げる。


「それじゃあみんなは周りの木を切って」

「わかった」


 こうしてフィーナとエルフ達による消火作業が始まるのであった。


水津波魔法アクアウェーブ


 フィーナの声が周囲に鳴り響くと、津波が炎に襲いかかる。すると炎は消火され、炭になった木々が姿を見せた。


「どんどん行くわよ!」

 

 フィーナは休まず魔力を両手に集め始める。


「俺達もやるぞ! 風切断魔法ウインドカッター


 エルフ達もフィーナに負けじと魔法を放つと、木々が次々と伐採されていく。

 しかし勢いが弱まったかのように見えたが、その炎は止まることはなかった。むしろ炎の勢いはさらに増して行き、このままではエルフの里を飲み込むのは時間の問題に見えた。


「あ、水津波魔法アクアウェーブ


 そのような状況の中でも、フィーナは諦めずに魔法を放ち続ける。だがエルフ達からは少しずつ放たれる魔法が減ってきた。

 初めはMP切れかと思ったが、表情が暗いことから諦めてしまってるように感じた。


「無理だ⋯⋯こんなの消せないよ」

「もう逃げた方がいいんじゃないか」


 仲間の言葉を聞いたからなのか、一人⋯⋯また一人と魔法を放つ者がいなくなる。

 もうエルフ達はダメだ。心が折れてしまっている。自分達が頑張った所で無駄だと思い始めているようだ。

 だが一人だけ心が折れていない者がいた。


「ま、まだよ! 絶対にこの炎は消してみせるわ!」

「フィーナ⋯⋯」

「ここはあなた達の⋯⋯私達の故郷でしょ! こんな炎に負ける訳にはいかない」


 この中で誰よりも魔法を使っていたのはフィーナだ。

 息は切れ、足は震え、顔色が悪い。誰が見てもMPがほとんどないとわかる程だ。だがそのような中でも諦めることはせず、目の光は消えていなかった。


「私達は誇り高きエルフの民⋯⋯神樹や森、仲間を守るために諦めるなんて文字はないはずよ」


 ここまで言われて立ち直れないならもうダメだな。ここにいても危険なので、逃げた方がいい。


「ふっ⋯⋯傾国の姫がエルフの誇りを語るとはな」


 この後に及んでまだフィーナを蔑むことを言うなら、エルフは誇り高き民ではないと言ってやりたい。だけどどうやらその必要はなさそうだ。


「フィーナ姫⋯⋯エルフの誇りにかけて、必ず森を守ってみせましょう」

「お願いね」


 エルフ達の目に、再び光が灯る。

 そして傾国の姫ではなくフィーナ姫と呼んでいた。どうやらフィーナをガーディアンフォレストの姫として認めたようだ。

 エルフ達は次々と魔法を放ち、周囲の木を伐採し始めた。

 フィーナがエルフ達から認められた今、このまま火を消し止めることが出来れば、俺の願った通りの結末を迎えることが出来る。

 だが現実はそうは甘くない。

 気力を振り絞っていたフィーナやエルフ達のMPは少しずつ枯渇していき、激しく燃える炎を残したまま、その場に崩れ落ちてしまうのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る