第78話 大海流

 フィーナやエルフ達が崩れ落ちる中、立ち上がる者がいた。


「ユートさん、何もせずに見ているなんて出来ません。僕も火を消す作業を手伝ってもいいですか」


 特に俺からは何も言ってないけど、ノアは魔法を使うと魔物扱いされるかもしれないので、自重していたようだ。

 だがそれももう限界らしい。

 けどその気持ちは俺も同じだ。

 エルフ達にフィーナを認めさせるために、手を出さず見守っていたが、既にある程度目的は達した。これ以上炎を放置したら取り返しのつかないことになる。

 それにフィーナが苦しんでいる姿はもう見たくない。


「いや、ここは俺に任せてくれないか」

「わかりました」

 

 俺は地面に膝をついているフィーナの元へ向かう。


「ユート⋯⋯やっぱり私は傾国の姫で、何かを変える力なんてなかったみたい」

「そんなことはない。エルフ達は君のことを姫と認めたじゃないか」

「でも偉そうなことを言ったのに、結局火を止めることは出来なかった。ここは危ないわ。あなたは逃げて」


 炎は留まることを知らず、どんどん燃え広がっている。後数分ここにいるだけで、炎に焼かれることは間違いないだろう。


「フィーナを置いて逃げるなんて出来ないよ。後は俺がやるから」

「俺がやるって⋯⋯この炎を消すには、女神の力でもない限り不可能だわ」

「それなら女神の力を借りて炎を消すまでだ」

「そ、そんなこと出来るわけ⋯⋯」


 言葉だけでは到底信じられないことだろう。それなら行動で見せるだけだ。

 俺は炎の前に立つ。

 するとは肌を焦がす程の熱気が、俺の身体に襲いかかる。

 幸いなことにこちらは風上のため煙を吸うことはないが、汗が止まらない。

 こんな場所には一秒だっていたくはないけど、エルフの里を⋯⋯フィーナを守るためにも引くわけにはいかない。


 俺は目の前の炎を消し去るため左手に魔力を集める。

 これだけ広範囲の炎を消すには中途半端な魔法じゃダメだ。

 今あるMPを全て使って、最強の魔法を放つしかない。


「女神セレスティアの名の元にユートが命ずる⋯⋯海の王であるリヴァイアサンよ⋯⋯汝の怒りの力を持って⋯⋯我の行く手を阻むものを全て排除せよ⋯⋯神聖セイクリッド大海流魔法タイダルウェーブ


 俺は詠唱を行い、魔法を解き放つ。

 すると全てを押し流す津波が具現化するのであった。


「うそっ! 何なのその魔法は!」


 フィーナが驚くのも無理はない。

 女神の魔法である神聖セイクリッド大海流魔法タイダルウェーブは、炎の壁を優に越える高さがあったからだ。


「ほ、炎が⋯⋯いえ、全てが飲み込まれて行くわ」


 フィーナの言葉通り、神聖セイクリッド大海流魔法タイダルウェーブは炎だけではなく草や花、木々、ここにあるあらゆるものを飲み込んでいった。


 そして神聖セイクリッド大海流魔法タイダルウェーブが蹂躙した場所には、一片の火種すらなかった。

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