第63話 レベル上げ

 俺達はさらに東へと足を向けると、行く手を遮るもの達が現れた。


「私の邪魔をするとは良い度胸ですね」


 俺達の前に現れたのは狼系の魔物、ウルフブラッドだ。シルバーの体毛に血のような赤い眼をしていることから、その名前がついたらしい。

 体躯は普通の狼と差はないが、身体能力は比べものにならない。一瞬でも隙を見せれば、あっという間に喉を食いちぎられるだろう。


「リズ、準備はいいか?」

「は、はい。大丈夫です」


 リズは俺から受け取った短剣を右手に持つ。

 これまで戦闘経験のないリズは、魔物を前にして身体が震えているように見えた。


「やっぱりやめようか?」

「いえ、やらせて下さい。私も皆様みたいに強くなりたいです」


 余計な心配だったか。どうやらリズの決意は固いようだ。

 俺が考えたのはリズに魔物を倒してもらうことだ。強くなるために一番手っ取り早いのはレベルを上げることだからな。そうすれば今後危険が振りかかってきても、生き延びられる可能性が高くなる。

 だけど虫すら殺したことのなさそうなリズに、魔物と戦わせるのは酷なことだ。そのため、ノアに魔物を無力化してもらってから、とどめを刺してもらうことにした。


「まずは魔物を一匹にしようか」


 俺は剣を抜き、前方に歩みを進める。すると五匹のウルフブラッドが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 そのスピードは速く、少なくとも普通の人間の倍以上の速度で迫ってきていた。


「ガアッ!」


 ウルフブラッドは口を大きく開け、鋭い牙で俺の頭を噛み砕こうとする。

 だが動きが単調だ。真っ直ぐに突撃をしてきたため、その行動は容易に読むことが出来た。


 俺は迫ってきたウルフブラッドの首を次々と跳ねていく。するとこの場には一匹のウルフブラッドだけになった。


「クゥン⋯⋯」


 ウルフブラッドは仲間が一瞬で殺されたことで、戦意を失っている。どうやら手を出してはならない相手だと気づいたようだ。

 そして逃げ出そうと踵を返すがもう遅い。


「ノア、頼む」

「任せて下さい! 氷拘束魔法アイスバインド


 ノアが魔法を唱えると地面が凍りつき、ウルフブラッドの動きを封じる。

 これでもうウルフブラッドは何も出来ないはずだ。


「リズはとどめを」

「わかりました」


 リズは手に持った短剣をウルフブラッドの腹部に突き刺す。

 するとウルフブラッドはもがき苦しみながら、動かなくなるのであった。


「リズどう? 気持ち悪くない?」


 人によっては血を見るのが苦手だったり、命を奪うことに対して気分が悪くなる人がいるため、心配になって聞いてみた。


「大丈夫です。このまま続けて下さい」

「わかった。もし気分が悪くなったら教えてくれ」

「はい」


 顔色も悪くないし、返事もしっかりしている。とりあえず大丈夫だと判断し、再び魔物討伐を行う。

 そして一時間程経った頃、リズは三十匹の魔物を狩ることに成功した。


「少し休憩しようか」

「はい。やはり漆黒の牙シュヴァルツファングが狼の魔物のためか、狼系の魔物が多かったですね」


 確かにリズの言うとおり、現れた魔物はほぼ狼系の魔物だった。この未開の地には漆黒の牙シュヴァルツファングがいるから、子分である狼系の魔物が幅を利かせているのだろうか。


「とにかくもう一度リズの能力を確認してみるよ」

「お願いします」

真実の目ヴァールハイト


 俺はスキルを口にすると立体映像が目に映り、リズの能力の詳細が見えてきた。


 名前:リズリット・フォン・ムーンガーデン

 性別:女

 種族:人間

 レベル:16/100

 好感度:A +

 力:68

 素早さ:142

 防御力:65

 魔力:1001

 HP:132

 MP:462

 スキル:魔力強化D・簿記・料理・掃除・神託

 魔法:光魔法ランク4

 称号:腹ペコハンター・ムーンガーデン王国王女・聖女


「レベルが倍になっているね。能力も順調に伸びているよ」

「本当ですか! これも皆様が協力して下さったお陰です」

「この調子で魔物を倒していけば、もっと強くなれそうだね」


 能力を見る限り、リズは魔法の才能がありそうだ。後はもっとレベルを上げて実戦経験を積んで行けば、十分な戦力になりそうだな。


「ですがその時間はもうなさそうです」

「「えっ!」」


 突然俺達の会話にマシロが割り込んでくる。するとその意味がすぐにわかった。

 東側からうっすら黒い霧のようなものが、こちらに迫っていたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る