第62話 初めて知る能力

 俺達は平原を東へと歩いていく。

 しかし歩いているのは俺とリズだけだ。

 マシロは定位置かのように俺の肩に乗っているし、ノアはリズに抱っこされていた。


「魔素を放つ魔物が国にいるなんて運が悪いですね」


 マシロがポツリと呟く。


「何かわかっていることはないのですか?」

「国王陛下からは漆黒の牙シュヴァルツファングは人の数倍の体躯を持ち、黒い狼の姿をしているらしい」

「それだけですか? 何か弱点とかそういう情報はないのですか?」

「姿を見た者は生きて帰ることが出来ないから、ほとんど情報はないそうだ」

「そうですか。ノアは何かわからないの? 同じ狼ですよね?」


 そんな無茶な。マシロに他の猫の弱点を教えてくれって言っているようなものだぞ。


「ごめんなさい。僕にはわかりません」

「リズは何か知っていることはある?」

「申し訳ありません。私も今ユート様が仰ったことしか⋯⋯そのことより私もお聞きしたいことがあるのですが」

「なに?」


 リズが神妙な顔つきで質問をしてくる。


「ノアちゃんってワンちゃんじゃなかったのですか!」


 俺はリズの言葉に思わずズッコケそうになる。危うくマシロが落ちそうになってしまった。

 何の質問をしてくるかと思っていたけど、まさかの内容だった。


「それではマシロちゃんも猫ちゃんじゃないのですか!」

「シャーッ! シャーッ!」


 マシロが猫扱いされてリズを威嚇している。正直今のマシロは誰が見ても猫だ。


「以前聖獣と仰っていたことは本当だったのですね」

「そもそも喋る猫と犬なんていないから」


 やはりリズは少しずれている所があるな。それが魅力的でもあるのだが。


「私は誇り高き聖獣、白虎です! 断じて猫ではありません!」

「僕も一応犬じゃなくて、フェンリルなんです」

「そうだったのですか。それは申し訳ありませんでした。ですが白虎でもフェンリルでも、二人が可愛くてもふもふなのは変わりません」


 するとリズは再び二人を抱き上げて、抱きしめる。

 

「や、やめなさい! この気高き聖獣に触れていいのは⋯⋯むぐっ!」

「リズさん苦し⋯⋯うぐっ!」


 やれやれ。リズに抱きしめられるなんて羨ましい限りだ。

 俺は二人に対して妬ましげに視線を送る。


「こ、こら! 早く私を助けなさい!」

「ユートさ~ん!」


 助けを求める声が聞こえるけど、リズの幸せの時間を壊すのも申し訳ないしな。ここは静観することを選ぼう。

 だが意外にもリズは物悲しげに微笑みながら、すぐに二人を解放した。


「マシロちゃんは聖獣でノアちゃんは神獣か⋯⋯だから二人は魔法が使えるんですね。ユート様のお役に立てて羨ましいです」

「まあ二人は特別だからね。でもリズだって光魔法が使えるだろ?」

「えっ?」

「えっ?」


 何故リズは驚いているのだろう。思わず声が出てしまったぞ。確か前に能力を視た時、光魔法が使えるようになっていたはずだけど。

 これはもう一度確かめてみるか。


真実の目ヴァールハイト


 俺はスキルを口にすると立体映像が目に映り、リズの能力の詳細が見えてきた。


  名前:リズリット・フォン・ムーンガーデン

 性別:女

 種族:人間

 レベル:8/100

 好感度:A +

 力:45

 素早さ:75

 防御力:50

 魔力:432

 HP:62

 MP:192

 スキル:魔力強化D・簿記・料理・掃除・神託

 魔法:光魔法ランク3

 称号:腹ペコハンター・ムーンガーデン王国王女・聖女


 やはり見間違いではなかった。リズは光魔法が使えることになっている。それと好感度がAからA+に、称号がムーンガーデン王国王女になっていて、元が取れていた。

 ともかくリズは魔法が使える。それが真実で間違いないはずだ。


「リズは光魔法が使えるよ。俺のスキルで能力を確認したから間違いない」

「ほ、本当ですか⋯⋯私が魔法を⋯⋯」


 信じられないと言った表情をしているな。

 ここは論より証拠だ。実際に魔法を使ってもらうか。


「リズ、手に魔力を集めて光球魔法ライトって唱えてもらえないかな?」

「わかりました。でも失敗しても笑わないで下さいね」



 リズは両手を前に突き出して目を閉じる。そして魔力を集めているのか額にシワを寄せていた。

 何だか今のリズは可愛らしくて微笑ましいな。

 しかしニンマリ笑みを浮かべている所を見られたら、リズに怒られるから平常心でいよう。

 そしてリズは魔力を溜め終わったのか目を開くと、魔法の言葉を口にした。


光球魔法ライト


 するとリズの手から白く輝く光球が現れ、周囲を照らし始めた。


「ユート様見て下さい! 本当に魔法を使うことが出来ました!」


 リズは初めて逆上がりが出来た子供のようにはしゃいでいた。

 その気持ちはわからないでもない。俺も初めて魔法が使えた時は興奮したものだ。


「五年程前に一度、真実の石で能力を確認したことがあります。でもその時は魔法の才能はなかったのに」


 何だろう? 聖女の称号で使えるようになったのかな? だがその理由は調べようがない。ちなみに真実の石は触れると能力がわかる石で、冒険者ギルドにあるらしい。


「とても嬉しいです。これで私も⋯⋯」


 もしかしてリズは強くなりたいのかな? リズは王女という立場だから、自衛のために強くなった方がいいかもしれない。

 俺はそう思い、リズにあることを提案するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る