第30話 罠
青年が持っていた紙にはこう書かれていた。
今宵日が沈み、月が昇り始めた時刻。ローレリア城正門前の広場にて、反逆の象徴である前国王と前王妃を処刑する。二人の命を助けたくばリズリット・フォン・ムーンガーデンを連れてくるべし。
俺はリズへと視線を送る。すると予想していた通りの言葉が返ってきた。
「私、お父様とお母様を助けに行きます」
やっぱりそう言うと思っていた。
優しいリズには行かないという選択肢ないだろう。
「いけません! 国王陛下と王妃様が本当に来られるかもわかりませんし、リスティヒが仕組んだ罠に決まっています!」
レッケさんの言う通り、これは百パーセントリズを捕らえるための罠だ。
だけど向こうはリズがこの手紙の内容をしれば、きっと出てくるとわかっているのだろう。
そういえばグラザムがローレリアに来いと言っていたな。もしかしてこの策はグラザムが考えたのか?
何にせよ卑劣な作戦であることは間違いない。
「ですがこれはお父様とお母様を助け出すチャンスです。もしこのチャンスを逃してしまったら⋯⋯」
手紙書いてある通り殺されるかもしれない。
やはり国王陛下と王妃様の命を助けるのであれば、この話に乗るしか方法はない。
「くっ! せめて国王陛下と王妃様が今どこにいるかわかればすぐに助けに行き、リズリット様を危険に晒さなくて済むのに」
そういえばマシロとノアは探知能力が高い。もしかしたら二人なら国王陛下と王妃様の居場所がわかるかもしれない。
俺は確認するために二人を抱き上げ、部屋の隅へと移動した。
そして小声で問いかけてみる。
「二人の探知能力で、国王陛下と王妃様の居場所ってわからないかな?」
「わかりませんね」
「僕も一度接触した相手じゃないとわからないです」
「そっか⋯⋯ありがとう」
残念ながら何でもわかる訳じゃないようだ。こうなると益々リズが行くことになってしまうな。
「何を言われようと私はお父様とお母様の所へ行きます。いいですね? レッケ騎士団長」
レッケさんの立場だと良いも悪いも言えないよな。行けばリズが捕まり、行かなければ国王陛下と王妃様が死ぬ。王家に忠誠を誓っていれば誓っている程答えが出せないはずだ。
「その問いに関して、私は答えを持ち合わせていません。ですが決断するのはお待ち下さい。まだ時間はあります。必ずや日が暮れる前に国王陛下と王妃様の居場所を見つけてみせます」
「わかりました。お願い致します」
「はっ!」
そしてレッケさんの指示の元、このアジトにいた人達は国王陛下と王妃様の探索へと向かう。
だけど正直厳しいだろうな。おそらくレッケさん達は以前から国王陛下達を探していたはずだ。それなのに後数時間で探せというのは無茶な話だ。
レッケさんはアジトの人達に命令を下した後、椅子に座って頭を抱えていた。もし国王陛下と王妃様が見つからなかったら、リズを危険に晒さなくてはいけないのだ。頭を抱える気持ちもわかる。
だけどここは、もし国王陛下が見つからなかった時のプランも考えるべきだ。実際にそっちの可能性の方が高いし、無策で対応するのは得策ではない。
「レッケさん⋯⋯どうするつもりですか?」
俺はまどろっこしいことはせず、単刀直入に問いかけてみる。
「今は国王陛下を見つけるしかない⋯⋯しかしこちらも沢山の人員がいる訳ではないからな」
「ちなみに向こう側とこちら側の戦力には、どのくらい差があるんですか?」
「おおよさだがレジスタンスは三百人、リスティヒ側は千人弱と言った所だ」
「約三倍の差ですか」
最悪、死刑執行の際に突撃をかけても、返り討ちにされる可能性が高いと言うわけか。
「リスティヒの兵士達がこちら側に寝返ってくれれば⋯⋯」
「それはどういうことですか?」
「彼らの多くは、自分の意志でリスティヒに従っている訳じゃないんだよ。何かきっかけがあれば反旗を翻すこともあるかもしれない」
軍としての統率もしっかりと取れていないということか?
それならやりようはある。そのきっかけをこちらが与えてやればいいだけだ。
「レッケさん。少しお話ししたいことがあるんですがいいですか?」
「ここでは話せないことなのか?」
「はい。出来れば」
「わかった。こっちに別室がある」
「リズとマシロ、ノアも来てくれないか」
「わかりました」
「ニャ~」
「ワン」
俺達はレッケさんの案内で別室に移動した。
出来ればこの話は他の人に聞かれたくない。
「それで話とはなんだ?」
「国王陛下と王妃様を救出する方法なんですけど⋯⋯」
俺は二人を助けるため、あることをレッケさんに提案するのであった。
時は過ぎ、既に夕陽が落ちて、空には月が輝こうとしていた。
結局国王陛下と王妃様は見つけることが出来ず、時間が来てしまった。
そしてリズはリスティヒ側の命令に従って、一人ローレリア城の正門へと向かっているのだった。
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