第19話 クーデターの首謀者

「びっくりしてしまいました」

「そうだね。オゼアさんも人が悪い」


 わざわざ別れ際に言わなくてもいいじゃないか。

 明らかに俺達を驚かせるタイミングを計っていたな。


「でも協力してくれる人がいるのは嬉しいね」

「そうですね。私達は国を維持することが出来ませんでした。見限ってもおかしくありません。果たして今のムーンガーデン王国で私に協力して下さる方がどれくらいいるか⋯⋯」


 余程の強い力がなければ、リズは王女に返り咲くことは出来ないだろう。

 そういえば他国はクーデターに関してどう対処するんだ? 内政干渉になるから手を出さないのか、これを機に攻め込むのか、それとも既に新しい国王が他国と対話を始めているのか?

 そういえば肝心なことを聞き忘れていたな。


「クーデターの首謀者は誰なんだ? それなりの地位がある奴だと思うけど」


 そのあたりにいる一般人が起こせるものじゃない。少なくとも法律を無視して武力で国を取った奴だ。まともな人物ではないだろう。


「それは⋯⋯お父様の弟であるリスティヒ公爵です」

「弟?」


 なるほど。これなら他国は干渉してこない可能性が高い。兄弟ならクーデターと言うより、お家騒動として見られているかもしれないな。


「お父様とリスティヒ公爵はいつも国の政策でぶつかっていました。リスティヒ公爵の口癖は、自国の民を生かさず殺さず、民は国に奉仕すべきだと。国民を優先するお父様とは相容れない方でした」


 だから国を手に入れるためにクーデターを起こしたという訳か。もし今聞いた思想をそのまま実行しているなら、ムーンガーデン王国は相当ヤバいことになってるんじゃないか?

 リズが国民を第一に心配する気持ちが理解できるな。


「ともかく今は考えても仕方ない。ムーンガーデン王国へ急いで向かおう」

「はい」


 こうして俺達はラインベリーから馬車に乗せてもらい、東にあるムーンガーデン王国へと向かった。

 そして夕方になり国境付近にある街であるサルトリアに到着し、今は宿屋の一室にいる。

 本当はリズと別の部屋にするため、二部屋借りようと思っていた。しかし本人から同じ部屋で大丈夫と言われたので、一部屋しか借りていない。まあマシロとノアもいるから問題ないだろう。


「今日中に街に到着して良かったです。硬い寝床は勘弁して欲しいですからね」

「私は野宿というのを一度して見たかったです」


 王女様として過ごしたリズは、野外で寝るなど無縁の人生だったのだろう。

 どうやらリズは、初めての体験を恐れるのではなく、楽しむタイプかもしれない。


「野宿をしても良いことなんて一つもないですよ」

「満点のお星さまの中で寝ることが出来るなんて、素敵じゃないですか」


 確かに俺もこの世界の夜空には感動した。地球では見ることが出来ない、まさにリズが言う満点の星空が拡がっていたからだ。


「虫は出るし夜は寒い日だってありますよ」

「虫はよくわかりませんが、寒い日はほら⋯⋯こうすればいいじゃないですか」


 リズはマシロとノアを抱き上げる。

 なるほど。確かに寒い日に二人を抱きしめれば温かそうだ。

 しかし抱きしめられた二人は、とても迷惑そうにしている。


「暑苦しいです! やめてください!」

「く、苦しいです⋯⋯息が⋯⋯」


 リズは二人が嫌がっているのを見て解放する。その顔はとてもしょんぼりしていた。


「うぅ⋯⋯ユート様。私⋯⋯二人に嫌われているみたいです」

「そんなことないと思うけど」


 俺は二人に視線を向けると、ノアが慌てて弁明し始める。


「僕はリズさんのこと好きですよ」

「本当ですか?」


 泣いたカラスがもう笑ったではないが、リズは嬉しそうに笑顔を浮かべる。そして自分のことをどう思っているのか知りたいのか、チラチラとマシロにも視線を向けていた。


「わ、私も別に嫌っている訳じゃないですよ」

「そうなの? それなら私のこと好きってことですか? 私も二人が大好きです!」


 再びリズが二人を抱きしめる。だが嬉しさも相まってか力強く、二人はさっきより苦しそうだ。


「リ、リズさん息が⋯⋯」

「やっぱり嫌いです! 離れなさい!」

「そんな心にもないこと言わないで下さい。もっと仲良くなるためにお風呂も一緒に入りますか?」

「入りません! 一人で入って下さい!」

「残念です⋯⋯」


 リズは残念そうな表情をして風呂場へと向かった。

 リズが王女様ということもあり、今回は室内にお風呂がついているちょっと金額が高めの部屋を選んだのだ。

 まあ猫は水に濡れるのが嫌いだから仕方ないよな。

 俺もリズが風呂から出たら入ろうかな。

 そして俺は旅で疲れた身体を休めるために、ベッドに横になる。

 すると突然先程リズが入っていった風呂場のドアが開いた。


「ユート様、これはどのようにしてお湯を出すのでしょうか? お恥ずかしいのですが、今までは侍女がやってくれたので勝手がわからなくて⋯⋯」


 俺は反射的に声がする方に目を向けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。


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