第18話 新たな目的地
「ど、どういうことでしょうか」
リズはオゼアさんに詰め寄る。
「船は修理したが、あくまで応急措置だ。こんな状態の船に客を長時間乗せる訳にはいかねえ。それにさっきの襲撃で食糧が全て海に流されちまったからな。一番近い港街に上陸する予定だ」
「そ、そんな⋯⋯」
リズはオゼアさんの判断にショックを受けているけど、客商売をする者として安全確保は当然のことなので間違ってはいない。
「そんなにムーンガーデンに行きたかったのか? 今はクーデターが起きているからおすすめしないぜ」
「私は⋯⋯私はムーンガーデンに行かなければならないのです」
「そうか⋯⋯残念だがムーンガーデンはクーデターの影響で
国境を閉鎖するようだ。今後は船で降りることも出来ないらしい」
そうなったら陸路で行くしかないな。だが国境付近が閉鎖しているなら、通常の方法ではムーンガーデンに入ることは出来なさそうだ。
「そういう訳だ。俺は他の客にも知らせに行かなきゃならねえから失礼するぜ」
そしてオゼアさんは部屋から立ち去って行く。
食糧問題だけなら、異空間に入っている野菜や肉を提供すればいいけど、船の修理に関してはどうすることも出来ない。
「リズ⋯⋯」
リズとしては民や両親に逸早く会うため、すぐにでもムーンガーデン王国へと向かいたかっただろう。
俺は肩を落としているリズに声をかけようとするが。
「落ち込んでもしょうがないです。明るく元気に前向きに。今はユート様に出会えたことを女神様に感謝しないと」
リズは一人で立ち直った。表情は笑顔で言葉通り現状を前向きに捉えているようだ。
こういうプラス思考な所は好感持てるな。ネガティブに落ちるよりはいい。
「俺達が必ずリズをムーンガーデン王国に連れて行くよ」
「そうですよ。この船のように大船に乗ったつもりでいなさい」
「それだと沈没するんじゃないか?」
「た、例えですよ例え。細かいことを気にしていると女性にモテないですよ」
「くっ!」
俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。
事実今までの人生でモテたことがないから、マシロの言葉は耳が痛い。
「ふふ⋯⋯お二人共ありがとうございます。凄く元気になりました」
「はは⋯⋯それなら良かった」
マシロのせいでリズに笑われたじゃないか。少し恥ずかしいぞ。
でもこれでリズの気が少しでも紛れたなら良かった。
「僕もがんばりますよ。リズさんのお役に立ってみせます」
「ありがとうございます。ノアちゃん」
こうして次の目的地は変わったけど、やるべきことが出来た。そしてオゼアさんが部屋から立ち去って二時間程経つと、船は港街であるラインベリーに到着するのであった。
俺達は船から降りるため、陸にかけられた橋を進んでいく。
そして降りた先には、客に頭を下げているオゼアさんの姿が見えた。
「ようユート。悪かったな、ムーンガーデンまで行けなくて」
「仕方ないですよ。魔物の襲撃なんて予想出来ませんから」
「お前みたいに言ってくれるとこっちも助かるんだが⋯⋯」
オゼアさんが困った表情をして頭の後ろをかき始める。
なるほど。他の客達に散々文句を言われたのかな? まあ目的地に到着しなかったからその気持ちもわからないでもない。だけどそこでグチグチ言っても何も始まらないからな。
「それではお世話になりました」
「ありがとうございます」
俺とリズは深々と頭を下げてから、オゼアさんの元を通り過ぎる。
リズの密航の件があるので、ここから早く立ち去りたい。
おそらくわかっていて見逃してくれていると思うが、ただの勘違いだった場合、リズは捕まってしまう。
それに他の船員から密航の指摘があった時は、さすがにオゼアさんも庇うことはしないだろう。
俺はドキドキしながらラインベリーの街へと向かう。
「ちょっと待て」
しかし俺の思いとは裏腹に、突然背後からオゼアさんに呼び止められた。
「なんでしょうか?」
俺は平静を装ってオゼアさんの声に応える。
まさか密航の件を言うつもりなのか?
もしそうなら、問われた瞬間に走って逃げよう。無駄な争いはなるべくしたくはないからな。
「ユート⋯⋯これで貸し借りはなしでいいな?」
主語を言わなかったが、これは明らかに密航の件について言っているのだろう。
やはりリズの密航はオゼアさんにはバレていたようだ。
「わかりました。それで大丈夫です」
俺は誤魔化すことをせず、正直に答える。バレているのに嘘をつくと、相手に不快に思われてしまうからな。
そしてオゼアさんは俺達の元へ近づき、小声で話し始める。
「何か困ったことがあれば相談に乗るぜ。リズリット様をよろしく頼む」
「「!!」」
俺は⋯⋯いや、俺とリズは思わず声を上げてしまいそうになる。
どうやらオゼアさんは、リズがムーンガーデンの王女様だと気づいていたようだ。
だから密航も見逃してくれたということか。
この人、大雑把な人に見えるけどなかなか食えない人だ。
「じゃあな。また会える日を楽しみにしているぜ」
そしてオゼアさんは俺達を驚かすという目論見が上手くいき、上機嫌な様子で船へと戻っていくのだった。
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