第20話 王族の常識は世界の非常識
「お湯? それは⋯⋯えぇぇぇっ!」
俺はリズの姿を見て思わず大声を上げてしまった。
何故ならリズは服を着ておらず、一糸まとわぬ姿だったからだ。
服の上から容易に想像出来たが、雪のように白い肌、大きな胸、抱きしめると折れてしまいそうなくびれ、男を惑わすには十分な破壊力だった。
それは俺も同じで、本来なら目を逸らさなくてはいけない所だが、吸い寄せられるように視線をリズに向けてしまう。
「初めにお水が出てきてビックリしてしまいました」
俺はリズが突然風呂場から出てきてビックリしたよ。
身体を隠すそぶりがないので、リズは自分の身体を見られていても恥ずかしいという概念がないのかもしれない。
まあこれだけ完璧なプロポーションをしていれば、見られても問題ないのか?
しかし何事にも永遠というものはない。
いつまでも見ていたくなる時間だったが唐突に終わりが来た。
「いつまで見ているのですか!」
突然マシロが声を上げて襲いかかってきた。
鋭い爪を伸ばし、俺の顔を切り裂こうとしている。
本来なら容易にかわすことができるが、今の俺はリズに目を奪われていたため、その爪を顔に食らってしまう。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
い、痛い! これは絶対血が出てるぞ!
マシロめ。容赦なく引っ掻いてきたな。
風呂場に連れていってシャワーの水をかけてやろうかと一瞬頭に思い浮かんだが、どう考えても裸の女の子をジーっと見ていた俺が悪いので自重する。
「リ、リズさん! とりあえずお風呂場に戻りましょう。お湯の使い方は僕が教えるので」
「ノアちゃんありがとうございます。それならこのまま一緒にお風呂に入りませんか?」
「わ、わかりました」
女神のように美しい身体をしていたリズが、ノアと共に風呂場へと戻っていく。
そしてこの場には俺とマシロだけとなった。
「さてと。外の空気でも吸ってくるか」
俺は外に出るため入口のドアノブに手を伸ばす。
だがその手を狙って、マシロが爪で攻撃してきた。
しかし先程とは違い、油断はしていない。
俺は手を引っ込めてマシロの爪をかわした。
「何をするんだ」
「それはこちらのセリフです。女性の裸を食い入るように見つめるなど恥を知りなさい。それがセレスティア様に選ばれた者のすることですか」
マシロの正論にぐうの音も出ない。セレスティア様に選ばれた云々はともかく、男として良くない行動だった。
「ごめん」
そのため、俺は素直に謝ることにした。
「どうしました? 素直に謝るなんて何か悪い物でも食べましたか?」
こ、この駄猫⋯⋯調子に乗ってるな。そもそもリズの裸を見たけどマシロには関係ない。何故俺はマシロに謝らなくちゃならないんだ。
冷静になって考えると謝って損した気分になってきた。
だけどここで争っても良いことは一つもないし、リズの裸を見たことについてガミガミ文句言われるのも嫌だ。
だからここはおとなしく反省した方がいいだろう。
「いや、普通に悪かったと思ってるからな」
「そうですか。ではお詫びに新鮮な魚を私に提供しなさい」
何でマシロに魚をあげなくてはならないんだ? 従順な振りをしているのがバカらしくなってきた。
「わかった。迷惑をかけたリズに美味しい魚を提供するよ。マシロは関係ないからいらないよな」
「関係あります。私はユートの歪んだ色欲を正してあげたのです。感謝されて当然です」
「色欲? そもそも俺は純粋にリズが綺麗だと思って目が離せなかっただけだ」
「純粋? 男にそのような感情はないとセレスティア様が仰っていました。あるのは汚れた性欲だけだと」
「それは嘘だろ。まあセレスティア様は女性だから男の気持ちはわからないさ。さっきのリズはまさにこの世界最高峰の芸術品と言っても過言じゃなかったからな」
「あなた今、セレスティア様をバカにしましたね?」
「していない。思い込みで人を悪者にするのは良くないぞ」
俺とマシロの間に火花が飛び散る。
この駄猫はきっと俺を攻撃するために、襲いかかってくるに違いない。
俺はいつでも迎撃出来るように、警戒する。
だが俺とマシロの争いは、突然聞こえてきた声によって止められた。
「あ、あの~」
声が聞こえてきた方に目を向けると、そこにはリズの姿があった。
だが先程とは違い、肝心な所はタオルで隠れされている。
「ど、どうしたの?」
「シャンプーがなくて⋯⋯そのことを伝えにきたのですが⋯⋯」
ん? よく見るとリズの頬が少し赤いような⋯⋯さっきは裸を見られても動じてなかったのに。
「あなた顔が赤くなっていませんか?」
俺が気になっていたことをマシロが聞いてくれた。
「それはその⋯⋯ユート様が私のことを綺麗とか芸術品だと仰るのを聞いて、少し恥ずかしくなってしまって」
さっきのやり取りを聞かれてたの!?
今度は俺が恥ずかしくなってきたぞ。
「え~と⋯⋯シャンプーがないんだっけ? ちょっと従業員の人にもらってくるよ」
「あっ⋯⋯お、お願いします」
「任せてくれ」
俺はリズを正直に褒めたことが恥ずかしくて、逃げるように部屋から出ていくのであった。
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