第12話 船上での戦い

「何だ今の声は!」


 女性の悲鳴のように聞こえたけど、あのような大声を出すなんて普通じゃない。


「気になるな。確認しに行くぞ」

「ちょっと待って下さい。せめて一口だけでも」

「後にしろ。どうやらただ事じゃなさそうだ」


 部屋の外から、幾人もの慌てふためいた声が聞こえてきた。

 これは急いだ方が良さそうだ。

 俺はドアを開けて部屋の外へ向かう。


「もう! わかりましたよ! 行けばいいんでしょ!」

「ユートさん待って下さい!」


 マシロとノアも俺の後に続く。

 さて、騒ぎが起こっているのどっちだ? 大型の船だから場所を特定するのが大変だ。

 だけど俺には頼もしい仲間がいる。


「デッキよ」

「デッキです」

 

 聖獣と神獣がすぐに騒ぎの場所を特定してくれたので、俺は急ぎ階段を駆け上がる。

 上から階段を降りてくる者が多数いることから、デッキで何か起きているのは間違いなさそうだ。


「ユート、戦いの準備を」


 俺はマシロの声に従って剣を抜く。どうやら何者かが暴れているようだ。

 そして階段を昇りきるとそこには、船員と魔物が戦っている姿が見えた。


「野郎ども! 客には指一本触れさせるなよ!」

「「「へい!」」」


 キャプテンハットをかぶった男が船員達に命令を下す。すると船員達は勇ましい声を上げ、魔物達と戦い始める。


「うっ⋯⋯何ですか。あの気持ち悪い魔物は」


 船を襲っている魔物は二足歩行で、槍を持っている。だが身体は鱗で覆われており、顔は魚だった。


「あれは半魚人だな」

「実は私、こう見えて水の中が苦手で⋯⋯もし海の中に引きずり込まれたら⋯⋯」


 いや、どう見ても猫のマシロは水の中が苦手に見えるけど⋯⋯場を和ますために冗談を言ってるのか?

 俺は思わずノアと顔を見合わせてしまう。

 だがマシロの表情は真剣だ。本気で言ってるのだろう。


「そ、そうなんだ。まあ人もたくさんいるし、喋れることがバレるのも面倒だから、二人は隠れていてくれ」


 こんな所で二人を見せ物にする訳にはいかない。

 俺は船員を攻撃している半魚人を背後から斬り捨てる。

 すると半魚人はなす術もなく青い血を流し、地面に崩れ落ちた。

 戦ってる船員も半魚人もそれぞれ十五名程、ここは船員と戦ってる半魚人を狙って倒して行こう。

 そして時は過ぎ五人程倒すと、人数差が出てきたせいか、こちらが優位に戦えるようになってきた。


「そこの兄ちゃん助かったぜ」


 キャプテンハットをかぶった男と背合わせになると、こちらに話しかけてきた。


「いえ、船が沈んだら大変ですから」


 主にマシロが。


「とりあえずもう少し力を貸してくれねえか」

「わかりました」


 そして俺達は再び半魚人へと向かう。そして数分も立つと半魚人は全て殲滅され、俺達の勝利となるのであった。


「ふう⋯⋯何とかなったな。初めて海に出たけどまさか魔物に襲われるなんて思わなかったぞ」

「そうだな。滅多にあることじゃねえぞ。ある意味ラッキーだったな」


 俺の独り言にキャプテンハットをかぶった男が答えた。


「ラッキーじゃないですよ」

「いや、ラッキーって言ったのは俺や乗客達のことだよ。お前がいなきゃマジで沈没してたかもしれねえからな」

「お役に立てたなら良かったです」

「俺はオゼアだ。恩人の名前を聞かせてもらってもいいか?」


 オゼアさんは右手を差し出してきた。


「俺はユートです。よろしくお願いします」


 俺は差し出された手を握り、オゼアさんと握手を交わす。


「ユートに借りが出来ちまったな。確か個室が一部屋空いていたはずだがその部屋を使うか?」

「いえ、もう個室を使ってるので大丈夫ですよ」

「だがそれじゃあ俺の気が⋯⋯」


 オゼアさんは顔は強面だが義理堅い人のようだ。

 困っている人がいたら助けるのは当たり前だし、ましてや自分が乗っている船が落とされる所だったんだ。

 俺はどう断ろうか考えていたら、突如船が大きく揺れた。


「くっ!」

「おわっ!」


 俺は危うくバランスを崩しそうになったが、何とか堪えることが出来た。


「な、何だ今の揺れは! 何が起きた!」


 オゼアさんにとっても予想外の揺れだったようで、急ぎ船員に状況を確認する。

 すると階段したから現れた船員から、とんでもない報告が返ってきた。


「オゼア船長! 右舷にある食糧庫に穴が空き、水が浸水しています!」

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