第11話 目的地を適当に決めると痛い目をみる

 俺達はカバチ村を離れて三日程北に向かうと、港街フェルドブルクに到着した。

 フェルドブルクは帝国最大の貿易都市として知られており、人の多さがカバチ村とは段違いで、活気に満ち溢れていた。


「風が気持ちいいですね」


 海に近いということもあり、程よい風が俺達の身体に心地好さを運んでくれる。

 それにここには新鮮な魚がたくさんあるため、マシロは御満悦だ。


「さて、これからどうするか」


 船に乗れば西にも北にも東にも行ける。

 西は温暖な気候なため、生活する上では便利そうだ。北は寒冷地となっており、魚が美味しそうだが猫のマシロが寒さに堪えられるか心配だ。

 東は暑すぎず寒すぎずない場所だが、西や北程栄えてはいないし、山や森が少し多い地域だ。

 どうせ宛のない旅だ。マシロとノアの意見も聞いて見るか。

 俺は二人に、それぞれの方角の地域に何があるか簡単に説明した。


「私は寒いのが苦手なので、北以外ならどちらでも大丈夫です」

「僕はどこだろうとユートさんに着いていきます」


 とりあえず三択から二択になった。

 西か東か⋯⋯俺が住みやすいのは間違いなく西側だろう。だけど西側は栄えているため人の数が多い。マシロとノアは猫と犬の振りをしなくちゃならないから、二人にとってはストレスになるだろう。それなら⋯⋯


「東に行くぞ」

「仕方ないですね。ここはユートに従いましょう」

「わかりました」


 こうして次の目的地が決まった。

 まずはマシロの言葉に従って市場に行き、新鮮な生魚と焼き魚、それと焼いた骨付き肉と野菜と水を大量に仕入れて、異空間にしまう。異空間の中は時間が経過しないため、もし遭難したとしても暫くは生きて行くことが出来るだろう。海の上では何が起こるかわからないしな。

 ただお金をたくさん使ってしまったため、勇者パーティーの時に稼いだ分はほぼなくなってしまった。

 残り大銀貨五枚か⋯⋯まあ余程のことがない限り、大丈夫だろう。


 ちなみに日本の通貨と比べるとこの世界の通貨は⋯⋯

 銅貨は百円。大銅貨は千円。

 銀貨は一万円。大銀貨は十万

 金貨は百万円。大金貨は千万円。

 白金貨は一億円。大白金貨は十億円。

 お金の問題はとりあえず置いといて、今は帝国から脱出することが先決だ。これ以上話の通じないギアベルと同じ国にいたくない。

 俺達は船に乗って帝国の東は行くため、港へと向かう。


 そして俺達はちょうど帝国の東にある小国、ムーンガーデン行きの船があったので乗ることにする。

 個室の料金も入れて大銀貨一枚だったため、職員にお金を払う。

 ムーンガーデンまでは船で二日かかる。

 俺一人なら大部屋でも良かったが、マシロとノアは二十四時間人がいるとストレスを感じると思い、個室にしたのだ。

 そしてとうとう船が出航する時間となった。


「どうする? このままデッキにいて、船が陸から離れていく所でも見ていくか?」


 俺は小声でマシロとノアに問いかける。


「そんなものを見てどこが楽しいのですか? それより市場で買った焼き魚が食べたいです」

「ぼ、ぼくもお腹が空いてしまいました」


 どうやら二人にとっては花より団子だな。

 まあ俺も少しお腹が空いてきたので、ここは二人に従おう。

 俺達はデッキから個室へと向かうがその時、周囲から大きな声が聞こえてきた。


「おいおい、ムーンガーデン王国が滅びたって本当か?」


 ん? ムーンガーデンが滅びただと!?

 突然の情報に驚きを隠せない。

 これは東を目的地にしたのは失敗だったか。

 俺は足を止め周囲を見ると、二人の船員が話をしていた。


「いや、滅びた訳じゃなくクーデターらしいぞ」

「俺達ムーンガーデンに向かってるんだよな? やばくないか」

「既にクーデターは成功して、王国内は落ち着いているからその心配はないようだ」

「そうか⋯⋯それならいいけど」


 落ち着いていると言っても不安は拭えない。ムーンガーデン行きの船に乗ったことを後悔した。だけど船は出航してしまっている。もう戻ることは出来ない。


「嫌な話を聞いてしまったわね。でも過ぎたことを気にしても仕方ないです。今は焼き魚を食べましょう」

「そうだな」


 マシロの言うとおり考えても仕方ない。

 それなら何があっても対処出来るように、今は腹ごしらえをした方が有用だろう。

 俺達は個室へと向かった。

 船の個室はさすがに大銀貨一枚払っただけはあり、広々とした部屋だった。

 俺は早速焼き魚と焼いた骨付き肉を異空間から取り出す。


「待ってました。それではいただきましょう」

「いただきます」


 マシロとノアは、香ばしい匂いを醸し出している魚と肉にかぶりつこうとする。


「きゃあぁぁぁっ!」


 だが突然絹を裂くような声が聞こえ、思わず動きを止めるのであった。



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