第10話 勇者一行の現在地

 俺達は走ってカバチ村から離れる。


「ふう⋯⋯ここまでくれば大丈夫か」

「ここまでくれば大丈夫か⋯⋯じゃありません! 何故私達が逃げるような真似をしなくてはならないのですか? せっかくお礼として新鮮な魚をもらえる所でしたのに。ノアも骨付き肉が欲しかったですよね?」

「ぼ、僕はそんな⋯⋯はい」


 どうやらお腹は正直のようだ。マシロもノアも不満を表している。

 ここは正直に何があったか話した方がいいな。


「それは申し訳なかったな。実は俺が帝国を出ていくのは――」


 俺は狙って勇者パーティーを離脱したことを伝える。


「なるほど。そのような者と一緒にパーティーを組みたくないですね」

「ユートさんに雑用を押しつけて、手柄は全て自分の物だなんて、そんなの酷いです」


 マシロもノアも怒っている。

 どうやら俺の考えは間違っていないようだ。


「そういうことで、今俺は北を目指している。二人共今の話を聞いても俺に着いてきてくれるか?」

「仕方ないですね。お世話係に着いていってあげましょう」

「もちろんです」


 どうやら帝国追放の事情を知っても、マシロとノアは着いてきてくれるようだ。

 そして俺達は帝国から脱出するため、北へと歩き出すのであった。


 ◇◇◇


 ユート一行が北を目指している頃


 勇者パーティーは、カバチ村の西にあるランザックの街の宿屋で静養していた。


「ふざけるな! この俺がゴブリンキングごときに負けただと!」


 ギアベルはベッドの側にあった花瓶を手に取り、壁に叩きつける。

 その様子をパーティーメンバーであるファラ、マリー、ディアンヌは恐れながら見ていた。


「お前達のせいだ! お前達が上手く立ち回らなかったから俺がこんな目に!」


 ギアベルはゴブリンキングのこん棒をまともに食らい、身体中の骨が砕かれ、現在ベッドから起き上がることが出来ない。動くのはガラスのコップを投げつけた右腕だけだ。

 

「ディアンヌが敵を引きつけておかないからだしぃ」

「私はマリーの矢がいつもより威力が弱かったせいだと思っています」

「ファラの魔法が発動しなかったからじゃない」


 三人共、自分ではなく仲間が悪いとは口にする。

 そしてそれはギアベルに対しても同じだった。


「ギアベル様も~調子悪そうに見えたしぃ」

「確かに動きが重いように感じました」

「いつもに比べて精細をかいていましたね」


 パーティーメンバーの指摘に、ギアベルの顔が赤くなっていく。


「まさか俺のせいだと言いたいのか?」


 ギアベルは威圧を込めて三人を睨み付ける。

 すると三人は慌てて首を横に振った。


「ギ、ギアベル様のせいじゃないですよぉ」

「私達のせいです。申し訳ありません」

「次は活躍出来るよう頑張ります」


 内心ではギアベルもいつもと比べて動きが悪いと感じていたが、三人は逆らえずにいた。

 

「その通りだ。もし次も醜態をさらすようなら、お前達もユートのように追放してやるからな」


 ユートのように追放⋯⋯その言葉の意味は、帝国に住むことが出来なくなるというものだ。三人はユートと違って帝国に家族がいるため、追放を避けるために、次は上手くやると決意する。


「それより俺の怪我を治せる回復術師はまだ見つからないのか?」

「今探している所なんだけどぉ⋯⋯まだ見つかってなくてぇ」

「いつまで俺をベッドに縛りつけとくつもりだ! 早くしろ!」


 ギアベルの怪我は、並みの回復術師では治せない程重傷だった。


「そういえば以前は、ユートがパーティーの回復役も務めてましたね」

「今まで私は回復魔法を使う者とパーティーを組んだことがなかった。回復魔法があそこまで便利なものだと知りませんでした」

「後どこから出したのか知らないけどぉ⋯⋯あいつのバックには何でも入ってたねぇ」

「ディアンヌ、マリー、ファラ⋯⋯それはあいつが有能だったと言いたいのか?」


 三人はギアベルに問われて失言であったことに気づき、慌てて首を横に振る。


「奴は無能だったから俺のパーティーには必要なかったんだ! 奴のお陰で勇者パーティーになった訳ではない! 二度とユートのことを口するな!」


 三人は頷く。

 客観的証拠があってもギアベルはユートの力を認めない。

 だが次の依頼によって、否が応でも自分達の立ち位置に気づかせられることになるとは、今のギアベル達は知る由もなかった。


―――――――――――――――




【読者の皆様へお願い】




 作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る