第13話 名探偵? ノア

 船員の声が周囲に響き渡った瞬間、猛スピードでマシロが駆け寄ってきた。


「ニャーッ! ニャーッ!」


 そして俺の首に抱きつき、恐怖のためか慌てふためいていた。

 無理もない。船が沈没したら嫌いな海に投げ出されるのだからな。

 俺はマシロを安心させるために抱きしめる。


「修復は出来そうか?」

「任せて下さい! 必ず直してみせます!」

「よし! 野郎共行くぞ!」

「「「へい!」」」


 オゼア船長は、先程半魚人と戦っていた船員達を引き連れて階段を降りていく。


 話を聞く限り船の修復出来そうなため、安心した。

 マシロではないが、さすがに海に放り出されるのは勘弁願いたい所だ。


「魔物が現れた時はヒヤヒヤしたよ」

「船を守ってくれてありがとう!」


 俺が戦う所を見ていたのか、乗客達から感謝の声が上がる。

 改めて褒められると照れる。日本人はシャイな人が多いのを知らないのか。

 ともかく俺が出来ることは終わった。後は船員の人達に任せるしかない。

 俺はデッキの端の方で作業が終わるのを待つ。すると周りに人がいなくなったので、ノアが話しかけてきた。


「ユートさんお疲れ様でした」

「ありがとう」

「僕も戦えれば良かったんですけど」

「さすがにここで戦うとまずいことになるからな」

「確かにそうですね」


 戦う犬がいたら見せ物にされるか、魔物だと思われそうだ。


「それと⋯⋯マシロさんは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫そうに見える?」

「見えないです」


 ブルブル震えながら俺の首に抱きついたままだ。

 可哀想でからかう気にもなれない。


「もし船が沈没しても、マシロとノアは必ず陸まで連れていくから安心してくれ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。だからそんなに怖がらなくても大丈夫だ」


 俺の言葉を聞くと、マシロは抱きついていた首から離れ始めた。

 しかしまたいつ船が揺れるかわからないので、守るようにマシロを抱っこする。


「ノアは大丈夫なのか?」

「はい。僕は泳げるので大丈夫です」


 犬かきか? それにフェンリルなら犬より余裕で泳ぐことが出来そうだ。


「乗客の皆様! 右舷の修理は完了したので安心して下さい!」


 そして船員から穴を塞いだとの報告を受けたので、マシロは俺の手から離れる。


「ふ、ふん⋯⋯全然怖くなかったです⋯⋯⋯⋯でも感謝してあげます。ありがとう」 


 照れ隠しなのか、それともツンデレなのかわからないけど、マシロは俺達に背を向けてお礼を言ってきた。


「は、早くご飯を食べに行きますよ。もうお腹ペコペコです」

「はいはい」


 俺とノアは腹ペコのマシロに続いて、個室へと向かうのであった。


 俺は個室に戻り、部屋のドアを開ける。

 すると瞬時に違和感に気づいた。


「あっ! 私の焼き魚がないです!」

「僕の骨付き肉が⋯⋯」


 そう。テーブルの上に置いた食べ物がないのだ。いや、正確には焼き魚も骨付き肉もあるが、魚も肉も骨だけになっていた。

 このことから誰かに食べられたことは明白だ。


「ノア! 匂いを嗅いでどこの誰が食べたか突き止めて下さい!」


 マシロが滅茶苦茶怒っている。こんなに怒っている姿は見たことがない。それだけ食べ物の恨みは恐ろしいということか。


「に、匂いですか」


 そしてノアに無茶振りをしている。さすがに何か犯人の持ち物とかなければ、特定するのは無理だろう。

 だが俺の予想は大きく外れた。


「わかりました。任せて下さい」


 なんとノアはこの状況で犯人がわかるという。さすがは神獣のフェンリルと言った所か。だけどその素晴らしいフェンリルの能力を、食い逃げ犯を捕まえるために使うのは何だかシュールだ。

 そしてノアが骨だけとなった魚と肉の匂いを嗅ぐ。すると目を見開き、高々と宣言をするのだった。


「匂いの判別が出来ました! 犯人は⋯⋯この部屋の中にいます」





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