第7話 掃討

「ふう⋯⋯何とかなったな」


 後は残ったゴブリン達を掃討するだけだ。

 だけどリーダーを倒されたせいか、ゴブリン達が敗走し始めていた。


「あ、あの! どこのどなたか知りませんが、妹を助けていただきありがとうございました」

「お兄ちゃんありがとう」


 同じ年くらいの女の子が深々と頭を下げて、メイちゃんが俺に突撃してきたので受け止めた。


「無事で良かった」

「お兄ちゃんが助けてくれたからだよ」


 メイちゃんが嬉しそうに上目遣いで見つめてくる。

 良かった⋯⋯この笑顔が守れて。

 もう少し遅れていたらと思うとゾッとする。だけど危機はまだ去った訳ではない。


 俺はメイちゃんを優しく引き剥がす。


「まだ村を襲っている魔物がいるから、お兄ちゃんちょっと行ってくるよ。二人は安全な所に隠れてて」

「うん」

「わ、わかりました」


 二人が少し大きな家に入ったのを確認して、俺はゴブリン達の討伐を再開する。

 だが既にほとんどのゴブリン達は戦意がなく、村の東側に逃走しているため、難なく狩ることが出来た。


「ユート」


 突如背後からマシロが現れる。

 そして定位置となりつつある俺の左肩に乗った。


「ゴブリン達が逃げて行きますね」

「たぶんリーダーを倒したからだと思う」

「どうしますか? 追いますか?」


 見逃したらいずれまた村を襲うことは目に見えている。ここは全滅させた方がいいだろう。


「ああ、このまま追撃するぞ」


 俺とマシロはゴブリン達を追って、カバチ村の東側へと向かう。

 そして俺の剣とマシロの風魔法で、逃げるゴブリン達を倒していくとある異変に気づいた。


「おかしいですね」

「そうだな」


 俺はマシロの問いに同意する。目の前で明らかにおかしな現象が起きているからだ。

 何故なら俺達が向かっている方向に、ゴブリンの死体が転がっているからだ。

 もちろん俺達が倒した訳じゃない。


「誰か俺達以外に戦っているのか? それとも偽勇者パーティーが倒したものとか?」

「いえ、風は何も言ってないですね。もしかしたら巧妙に隠れている可能性もありますが⋯⋯それと死体は新しいです。偽勇者が倒したものではないと思います」


 俺は一度立ち止まり、ゴブリンの死体を確認してみる。

 するとゴブリンの傷口が氷ついていることがわかった。


「誰かがゴブリンと戦っているのは間違いなさそうだ」

「私達の味方ということですね」

「それはわからないけど」

「敵の敵は味方と言いますよね? 私の野生の勘がそう言ってます」


 聖獣の勘なら信用出来るものなのか?

 とにかくゴブリンを倒していることは間違いないないから、俺達に取って悪いことじゃないと考えよう。


 俺とマシロは死体を横目に、逃走しているゴブリンを追いかける。するとゴブリン達が洞窟に入っていくのが見えた。


「あれが村の人が言っていたゴブリンの巣か」

「何だか薄気味悪い所です」

「それならマシロはここで待っててくれ。俺一人で行ってくるよ」

「確かに洞窟に入りたくないという気持ちはありますが、ユートだけ行かせるような薄情者ではありませんよ」


 以外にも俺のことを考えてくれてたのか。世話係世話係言われてたから自分優先だと思っていた。


「いや、そういう理由じゃなくて、洞窟で背後から襲われたら嫌だなと思って。マシロはここに残って、洞窟に入ろうとしているゴブリンを退治してほしい」

「それならそうと早く言って下さい。わかりました。仕方ないのでその役目は私が担いましょう。ですがその前に⋯⋯あちらの草むらで、ゴブリン以外の誰かが倒れています」

「えっ?」


 突然マシロが予想していなかったことを口にする。もしかして風の力で周囲の様子を探知したのだろうか。

 ゴブリン以外の何者かが倒れている。それはゴブリンを倒した人物なのか? とりあえずマシロが言う草むらを確認して見よう。


「呼吸が荒いですね。あまり状態は良くなさそうです」

「わかった。俺が見てくるよ。マシロはここで待っててくれ」


 ゴブリン以外の魔物の可能性もあるので、危険が迫るなら俺だけでいいだろう。

 俺は倒れている者を確認するため、草むらを掻き分けて行く。

 するとそこには、血を多く流した黒い子犬が倒れているのであった。

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