第8話 フェンリル
「子犬? ゴブリン達に殺られたのか!」
地面が赤く染まっている。むしろこの状態で生きているなんて奇跡だ。このままだとこの子犬は死んでしまうぞ。
子犬は息絶え絶えで、今にも命が失われそうだ。
「犬ですか? 私とは相性が良くありませんが助けて⋯⋯えっ?」
子犬と聞いて危険がないと思ったのか、マシロがこちらに向かってきた。だけど子犬を見た瞬間、何故か驚きの表情を浮かべている。
「この子犬のこと知ってるのか?」
「⋯⋯私も直接会ったことはありませんけど、この犬は神獣のフェンリルです」
「神獣⋯⋯だと⋯⋯」
どうみてもただの犬にしか見えないが⋯⋯
俺はチラリとマシロに視線を向ける。
だけどただの猫が白虎だからそういうのもあるのかな?
「なんですか? その目は何か失礼なことを考えていますね?」
「いや、そんなことない。それよりこのフェンリルを助けないと」
野生の勘か? 鋭い猫だな。
俺はフェンリルに向かって左手の掌を向け、魔力を溜める。
「
そして魔法を解き放つと、フェンリルの身体が光輝き始める。
おそらくこれでフェンリルの命は助かるはずだが⋯⋯
すると閉じられていたフェンリルの目が、ゆっくりと開いていく。
「こ、これは⋯⋯セレスティア様のお力⋯⋯」
フェンリルが人間の言葉を口にする。
これで決まりだな。どうやら目の前の子犬はマシロの言う通り、神獣のフェンリルで間違いないようだ。
「こんな所で何をしているのですか?」
「あなたは⋯⋯白虎?」
「私のお世話係があなたの命を救ってあげたのです。感謝して下さい」
マシロは自分が助けた訳じゃないのに偉そうだな。
「助けてくれてありがとうございます」
フェンリルは深々と頭を下げてくる。
どうやらフェンリルはマシロと違って素直のようだ。
「お礼をしたい所だけど、僕はゴブリンキングを追いかけます。さっきは負けたけど、次こそは必ず勝ってみせます」
どうやらフェンリルの傷は、ゴブリンキングにやられたようだ。
「ゴブリンキングなら私のお世話係が倒しました」
「えっ? それは本当ですか?」
「ええ⋯⋯そして残りのゴブリンを倒すために洞窟行こうとしたら、あなたを見つけたと言うわけです」
「そうですか⋯⋯だったら僕も連れていって下さい」
子犬に見えるけど神獣のフェンリルなら戦力になるだろう。こちらとしても断る理由はないが⋯⋯
「ここに来る途中で凍っているゴブリンを見たけど、それは君がやったのかな?」
「はい」
それなら実力的にも申し分なさそうだ。
「わかった。それじゃあ俺について来てくれ」
「わかりました」
そして当初の作戦通りマシロはここに残り、俺はフェンリルを連れて洞窟の中へと向かう。
洞窟に入ると、段々入口からの光が届かなくなり、視界が暗闇に遮られる。
「これだと見えませんよね。
フェンリルが魔法を唱えると俺達の前に光の玉が現れ、周囲の視界を明るくしてくれる。
「光魔法も使えるんだね」
「はい。水魔法程得意じゃないけど」
ただの子犬と思って近寄ったら、偉い目に合わされそうだな。
「そういえば僕を治療してくれた時、セレスティア様と同じ気配を感じました。あなたは何者ですか?」
「俺は天界にいたことがあって、セレスティア様に神聖魔法を教わったんだ」
「セレスティア様に魔法を!? それはとても羨ましいですね⋯⋯僕は⋯⋯」
フェンリルは途中で言葉を切ってうつむいてしまう。何か落ち込む理由があるのだろうか。
だがそのことを考えている暇は与えてくれなかった。
「この先にゴブリンがいます」
「わかった。君が魔法で攻撃をして打ち漏らした奴を俺が倒す。それでいい?」
「はい」
俺達は先に進むと、
「行きます!
フェンリルが声高に魔法を唱える。
すると五本の氷の槍が、ゴブリンへと放たれた。
氷の槍のスピードは速い。これは簡単には避けられないだろう。
「グキャァッ」
俺の予想通り、ゴブリンは氷の槍をまともに食らう。
そして断末魔を上げるとその場に崩れ落ちるのであった。
「俺の出番はなかったね」
「ご、ごめんなさい」
「いや、怒ってる訳じゃないんだ。やっぱり神獣と呼ばれるだけあって強いね」
「⋯⋯僕なんかまだまだです。ゴブリンキングに手も足も出なかったし」
そういえばフェンリルは何故ここにいたんだ? セレスティア様が天界の生物は基本地上には降りて来ないと言っていたけど⋯⋯
何か事情がありそうだけど、今はゴブリンを倒すことに集中した方が良さそうだ。
「また来ます」
「わかった」
そして俺達はこのまま足を進め、洞窟内にいるゴブリンは全て倒すことに成功するのであった。
「これで終わりかな」
「はい。近くには生物の匂いは感じないです」
匂い? やはり犬科だから嗅覚がとても優れているのか?
「それにしてもすごい剣技ですね。ゴブリンキングを倒したの頷けます」
「そうかな? あまり人と比べたことがないから良くわからないけど」
「羨ましいです。僕にもその強さがあれば⋯⋯」
何となくフェンリルは強さに執着があるように感じる。もしかしてそれが地上にいる理由なのか?
少し気になるから洞窟を出たら聞いてみるかな。
「あっ! あっちの方に何かありますよ」
突然フェンリルが駆け出しだ。
その方向に視線を向けると、そこには金や銀、宝石などの財宝が俺の目に映るのであった。
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