第6話 女神の魔法
何とか間に合った。
だがゴブリンの力が強すぎて、押し返すことは出来なそうだ。
「あ、あ⋯⋯」
「だ、大丈夫⋯⋯このゴブリンは俺が何とかするから⋯⋯立てるかな?」
まずは女の子を安全な場所に避難させることが優先だ。出来れば自分で立って逃げてくれると助かるので、俺は背後にいる女の子に優しく問いかけた。
「あり⋯⋯ありがとう。うん⋯⋯立てるよ」
「良かった。それじゃあ村の人達の所まで走るんだ」
「うん」
少しは恐怖が薄れてきたのか、女の子はこの場から離れようと立ち上がる。だがゴブリンはこの場を離れることを許さなかった。
「グワアオッッッ!!」
「キャァァァッ!」
女の子を逃がさないためか、ゴブリンが咆哮を上げる。
すると女の子は恐怖で悲鳴を上げ、再び地面に座り込んでしまった。
こいつ⋯⋯ふざけたことを。
魔法を使えればこの状況を打破出来るけど、少しでも気を抜けばこん棒が俺と女の子に襲いかかるだろう。
そうなると女の子が自力で逃げてもらうしかない。
「突然現れた奴を信じろって言う方が無理だと思うけど、君には指一本触れさせない。だから勇気を出して立ち上がってくれ」
「⋯⋯うん⋯⋯メイ⋯⋯お兄さんのこと信じる。がんばるよ」
「良い子だ」
メイは再び立ち上がり、この場を離れようとする。
だがさっきと同じ様に、ゴブリンは咆哮してきた。
「グワアオッッッ!!」
しかしメイは止まることなく、村人の元へと向かう。
それはユートを信じていたということもあるが、両手で耳を塞いで咆哮が聞こえないようにしていたからだ。
メイちゃんが無事にこの場を離れたことがわかった。後は俺がここから逃れるだけだ。
俺は不意に力を抜くと同時に、後方にバックステップをしてこん棒から逃れる。
するとこん棒が俺のいた地面を破壊する。
「すごい力だな」
あれをまともに食らったら一撃で殺られてしまう。
それにしても⋯⋯このゴブリンはただのゴブリンじゃないな。ゴブリンの王様⋯⋯ゴブリンキングだ!
力、スピード、全てにおいてゴブリンの力を優に越えており、Aランクの魔物だ。
魔物の強さはSS、S、A、B、C、D、E、Fランクに分かれている。上から三番目のランクだから相当強いことが窺える。ちなみにAランクの魔物を幾つか狩ることが出来れば、勇者パーティーに認められるのだ。
これは偽物の勇者パーティーは負けて当然だな。
このゴブリンキングを狩ることが出来るパーティーは、そう多くないだろう。
ましてや個人で狩る者など一握りしかいないはずだ。
「グアァァァッ!」
ゴブリンキングは自分の攻撃がかわされて腹が立ったのか、怒りの咆哮を上げていた。
そして俺を見下ろし、余裕の表情を浮かべている。負けるなんて微塵も思っていない目だな、あれは。
実際力では負けていそうだけど、剣の技術と魔法ではこちらが上だ。
実は自分が淘汰される側の者だということを教えてやろう。
「
俺は魔力を左手に込めて、自分自身に魔法をかける。
これは力やスピードを強化する付与魔法だ。魔力を込める量によって強化する強さを変えられる。今回は相手を圧倒するため、全力でかけさせてもらった。
付与魔法のお陰で俺の身体には今、力が漲っている。
これならゴブリンキングに負けるはずがない。
「グガァァッ!」
ゴブリンキングは怒号を上げながらこちらに迫ってくる。
そして先程と同じ様に鉄のこん棒を振り上げ、俺に向かって振り下ろす。
鉄のこん棒が風を切り裂き、頭部に向かってくる。
だがそのような攻撃を食らうわけには行かない。
俺はこん棒に合わせて、剣を横一閃になぎ払う。
すると剣とこん棒がぶつかり合い、けたたましい金属音が辺りに鳴り響き、俺の剣によってこん棒は簡単に弾かれた。
「ガアァァッ!」
ゴブリンキングはイラつきを見せながら、連続でこん棒を振り下ろしてきた。しかし俺は全ての攻撃を剣で弾く。
力は強いが動きは単調だ。動きを読み、剣で弾くことは容易い。
そしてゴブリンキングは攻撃をする度に、少しずつ威力が弱まっていた。
おそらく俺の剣の威力によって手が痺れているのだろう。
そして終にはこん棒を持つことが出来ず、地面に落としてしまった。
「お前の時間はもう終わりだ」
俺はこん棒を失い、隙だけとなったゴブリンキングの首を斬り落とす。
すると首から上を失い、絶命したゴブリンキングの大きな体躯は、ズドンと地面に崩れ落ちるのであった。
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