第5話 村を襲った魔物達

 助けを求めてきた者が語り出す。


「村の近くに洞窟があって⋯⋯そこにゴブリンが住み着いたんだ」


 ゴブリンは群れをなす種族なので、一匹や二匹では収まらず、そこそこの数がいると考えた方がいいだろう。


「それでちょうど村に滞在者していた勇者パーティーが討伐してくれると言ってたが、返り討ちにあってしまって。そして巣を攻撃したことでゴブリンの怒りを買い、村が⋯⋯村が⋯⋯」


 勇者パーティー? まさかギアベル達じゃないよな?

 この世界には国に認められた勇者パーティーがいくつかある。

 勇者パーティーは国や街からの要望で魔物退治などを行う代わり、様々な特権が認められていた。

 まあそもそもギアベルが帝国の皇子だったから、俺達のパーティーにはあまり関係がなかったけど。


「それにあの勇者パーティーは怪しいと思ってた。前金を要求してきて村で好き放題飲み食いしたあげく、ゴブリンの討伐に失敗したら逃げ出して。たぶんあれは勇者パーティーを語った偽物だったんだ」


 偽物か。それならギアベル達ではないな。もし帝国内でギアベルと出会ってしまったら、追放されたお前が何故ここにいると因縁をつけられそうだけどその心配はなさそうだ。


「とりあえず話しはわかりました。後は俺に任せてください」

「ほ、本当ですか!」

「だからあなたはどこかに避難してください」

「ありがとうございます!」


 こうしている間にも襲われている人がいるはずだ。

 俺は急ぎ村へと駆け出す。

 ここからならすぐに村に着くだろう。


「あなたの⋯⋯命の恩人であるあなたの名前を教えて下さい」

「俺はユートです」


 背中から聞こえる声に答えて、俺はカバチ村へと向かう。


 そして数分もしない内に村が見えてきた。


「ひどい有り様ですね」


 マシロが口にした通り、田畑は荒らされ、家は燃やされていて、そこら中にゴブリンの姿が確認出来た。


「喋ると他の人に聞かれるぞ」

「大丈夫です。この周囲に人の気配はしません。既に逃げているのかもしくは⋯⋯」


 死んでいると言いたいのだろうか。だがこの光景を見ているとあながち間違ってはいなそうだ。


「安心して下さい。北の方から人の気配がすると風が教えてくれました」

「風が?」

「はい。私は風属性の魔法が得意ですから」


 どうやらホロトロを見つけたのも、その風魔法の可能性が高いな。

 それにしても人が⋯⋯いや、猫が悪い。さっきの言い方だと村人はもう死んでいる的な感じだったぞ。

 マシロを問い詰めてやりたい所だが、今は時間がない。早くゴブリンを討伐しなければ、俺の思い浮かべた通りになってしまう。


「それにしてもゴブリンの数が多いな」


 確認出来るだけで、少なくとも三十匹以上はいそうだ。


「ここは私に任せて下さい。ユートは人間がいる北の方をお願いします」

「大丈夫なのか?」

「誰に言ってるのですか? 白虎の力を甘く見ないで下さい」


 出会った時、てっきり狩りが出来なくて腹を空かせていると思っていたが、どうやら違うようだ。


「手始めに前方にいるゴブリンを蹴散らして見せます。ユートはその間に北へ向かって下さい」

「わかった」


 マシロは自信満々な様子だったので、任せることにしよう。


「行きますよ。風切断魔法ウインドカッター


 マシロが魔法を唱えると、風の刃がゴブリンに向かって放たれる。

 そして風の刃はゴブリン二匹を切り裂き、あっという間に倒してしまった。


「どうやら腕に自信があるのは本当だったみたいだな」

「初めからそう言ってます。それより早く行った方がいいですよ。北には一匹だけ凄く大きな魔物がいるようですから」

「わかった。それじゃあ後は任せた」


 俺はマシロの実力を見て、安心してこの場を任せられると判断し、カバチ村の北へと向かう。


「くっ! 思っていた以上に数が多いな」


 北へ向かっている最中も二十匹程のゴブリンを剣で切り捨てた。だけど視界にはまだ多くのゴブリンがいる。


「これは偽物の勇者パーティーがやられたのも頷けるな」


 だが今は立ち止まっている暇はない。早く村人達がいる所に向かわないと。


「ギィギィ!」

「ウギャアッ!」


 しかしその道を塞ごうとしているのか、ゴブリン達がこちらに迫ってくる。


「邪魔だ!」


 だけどゴブリンごときが何匹来ようが、天界で鍛練していた俺には足止めにすらならない。

 そして駆け出しながらゴブリンを倒し進んでいくと、突如人の声が聞こえてきた。


「だ、誰かメイを助けて!」

「このやろう! あっちに行きやがれ!」


 俺は声が聞こえてきた方へと進むと、そこには俺の倍以上の体躯を持ったゴブリンがいた。だがそこにいたのはゴブリンだけではない。ゴブリンの足元には、小さな女の子が地面に座り込んでいたのだ。

 そしてゴブリンは手に持った鉄のこん棒らしき物を振りかぶる。

 このままだと女の子が潰されてしまう!


「い、いや⋯⋯」


 女の子は怯えた表情で、恐怖のためか声をうまく出せないでいた。

 俺はさらにスピードを上げて女の子の元へと駆ける。

 そしてゴブリンのこん棒が女の子に振り下ろされた時、間一髪剣で受け止めることに成功するのであった。

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