第4話 トラブルは突然に

 俺とマシロは、自宅から山の麓にあるカバチ村へと向かう。

 途中、森の中でマシロが三匹のホロトロを見つけたので、弓矢で射ち落とし、解体してから異空間へとしまった。異空間にしまっておけば時間経過しないので、採れたての味を楽しむことが出来る。

 それにしてもマシロは気配を感じるのが得意なのか、それとも人間より遥かに優れた嗅覚を使ったのかわからないが、これから獲物を見つけることが楽になりそうだ。


「旅に出ると言ってましたが、これからどこへ行くつもりですか?」


 歩くことを一切せず、俺の肩に乗っているマシロが語りかけてきた。


「⋯⋯決めてない」

「決めてない? それはどういうことですか?」

「実は帝国⋯⋯この国から出ていけって言われてて、まだ何も決めてないんだ」

「ま、まさか私のお世話係は犯罪者? もしかして可愛い私もこのまま奴隷として⋯⋯」


 この駄猫は何を考えているんだ。世話するのが嫌になってきたぞ。


「さっき仕留めたホロトロは俺が食べるとしよう」

「あっ! 嘘です。ごめんなさい」


 ホロトロの肉が相当気に入ったのか、マシロはすぐに謝罪してきた。

 なかなか食い意地の張った聖獣だな。

 これは美味しくない食べ物を提供したら怒られそうだ。

 

「それより本当にこれからどうするのですか?」


 カバチ村はどちらかというと帝国の中心に近い場所にあるから、どこにでも行けるんだよな。

 正直どこの国に行くか決めかねる。


「出来れば寒すぎる所と暑すぎる所は行かないでほしいです」

「う~ん⋯⋯そうなると今の時期、南は暑いから行くなら東か西、それか北だな」


 確か数日歩くと海があって、船に乗れば南以外に行けるはずだ。

 それに海に出れば新鮮な魚があるし、マシロも喜ぶだろう。


「とりあえず美味しい魚が食べたくないか?」

「美味しい魚? 良いですね」

「それなら北に行くしよう」

「仕方ないですね。ユートに従いましょう」


 食い意地が張っているマシロから反対意見は出なかったので、北に行くことに決定した。

 目的が決まったことで俺達は足取りが軽くなり、カバチ村へと向かうが⋯⋯


「ひぃぃぃっ!」


 突然中年の男性が叫びながらこっちに向かってきた。


「何ですかあれは?」

「しっ! マシロが喋っているのを見られるとめんどくさいことになる」


 聖獣だと言っても信じてもらえなければ、魔物扱いされる可能性がある。極力人には知られない方がいいだろう。


「ニャ~」


 マシロも俺の言うことを理解したのか、猫に戻る。


「ま、魔物が! あんたも逃げた方がいいぞ!」


 男性の後方には三匹の醜い容姿をした魔物⋯⋯ゴブリンの姿が見えた。

 このままだと男性は追いつかれてしまいそうだな。


「マシロ⋯⋯俺の肩にしっかり捕まるか、下に降りてくれ」

「ニャ~」


 どうやら降りるつもりはないようだ。

 それならこのままやらせてもらおう。


「こ、殺されるぞ! 早く!」


 男性は俺の横を走り抜ける。

 だがもうスピードはなく息絶え絶えだ。その証拠に男性は地面に倒れてしまった。もし俺も逃げれば、この男性は確実に殺されてしまうだろう。


 俺は腰に差した剣に手を置き、迫ってくるゴブリンに向かって駆け出す。


「ギィギィ!」

「ウヒャ!」


 ゴブリンは言葉にならない声を出し、笑みを浮かべていた。

 獲物が一匹から二匹に増えたと喜んでいるようだ。

 しかし思い通りにはさせない。

 ゴブリン達とすれ違い様に俺は剣を抜く。

 居合い一閃で胴体をなぎ払うと、三匹のゴブリンは断末魔を上げることも出来ず、その場に崩れ落ちた。


「ふふん⋯⋯さすがは私のお世話係です。及第点を上げましょう」


 得意気に語りたかったのか、マシロが小声で人の言葉を喋り始めた。

 反応すると男性におかしく思われるかもしれないので、とりあえず無視しよう。

 

「い、一瞬で⋯⋯ゴブリン達⋯⋯」


 男性は信じられないと行った表情で、こちらに視線を送ってきた。

 ギアベルと比べて思ったが、俺の剣技は相当高いレベルにあるようだ。勇者パーティーにいた頃、この世界の人間がどれほど強いのか観察していたが、勇者と呼ばれたギアベルでさえ、俺より弱いと感じた。

 だからこの男性が驚くのは当たり前のことなのだろう。


「た、頼むあんた! 村が⋯⋯村が襲われているんだ! 助けてくれ!」

「村が襲われている!?」


 俺は必死にしがみついてくる男性の願いを聞くため、その言葉に耳を傾けるのであった。

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