第2話 最初に拾ったものは・・・

 ギアベルに追放宣告を受けた二日後。


 俺は人里離れた山奥にある自宅へと帰った。


「一ヶ月ぶりだな」


 勇者パーティーの勧誘を受けて仕方なく入ったが、最悪な一ヶ月だった。だけど帝国からは追放されたけど、二度とギアベルと会わずに済むと考えればマシな方か。

 そもそも俺は帝国に⋯⋯今住んでいる場所に愛着がある訳じゃない。

 何故なら異世界転生してからの十四年間は、女神セレスティア様がいる天界で暮らしていたからだ。何でも子供の状態でこの異世界に放り出すのは申し訳ないという理由らしい。

 そのため、十四歳の誕生日を迎えて一年間しかここには住んでいないのだ。


「おっ! ホロトロがいる」


 森の木に、一羽の鳥が止まっているのが見えた。

 体長三十センチ程の大きさで、油がのっていてとても美味しい鳥だ。


「今日の昼ご飯にでもするか」


 俺は左手に魔力を込める。そして別世界の空間へと手を伸ばし、弓と矢を取り出した。

 これは異空間収納という魔法だ。自分の手に持てない大きな荷物などを収納しておくことが出来るから、とても便利な魔法である。


「後はこの弓矢で仕留めるだけだ」


 俺は矢をセットし弓を引き絞る。そしてホロトロに照準を合わせ、矢を放った。

 すると矢は猛スピードで飛んで行き、見事ホロトロの首に当たるのであった。

 ホロトロは矢が刺さったまま木から落下したので、俺は急ぎ駆け寄り、今日の昼食を手に入れることが出来た。


 俺はホロトロを入手出来たことが嬉しくて、笑顔で自宅へと向かう。

 そして五分もしない内に、丸太で積み重ねたログハウスが見えてきたので、ドアを開け中に入る。

 だが家の中を見た瞬間、ホロトロを手に入れてご機嫌だった気分が一気に消え失せた。


「床に土⋯⋯だと⋯⋯」


 この山奥に人が来ることなどない。一ヶ月留守にしていたから埃があるのは理解出来るが、土があるということは、誰かが俺の家に侵入したということだ。

 浮かれていた気持ちはなくなり、冷静に周囲の気配を探る。

 すると台所の方から気配を感じた。


「ミィ⋯⋯」


 誰だ? まさか人がいるのか? いや、今の声って⋯⋯

 俺はゆっくりと台所に近づくと、そこには一匹の白い子猫が横たわっていた。


「何だ猫か⋯⋯驚かせるなよ」


 白猫はこちらの存在に気づくとギロリと睨み付けてきた。


「そんな目をするなよ」


 俺は敵意がないことを証明するため、白猫の頭を撫でる。


「ミィ⋯⋯ミィ⋯⋯」

「ん? 声が弱々しいな。もしかしてどこか怪我でもしているのか?」


 白猫を抱き上げて身体の隅々まで見てみる。

 だが身体には傷一つなく、特に怪我をしている様子はなかった。


「それなら病気とか?」


 さすがに病気だと不味いな。少なくとも俺には治すことが出来ない。一旦街に降りて医者にみせるしかないか。


「ミィ⋯⋯ミィ⋯⋯」


 白猫は変わらず弱々しく鳴いている。


「これは一刻を争うかもしれない」


 俺は白猫を抱きかかえたまま、家の外へと向かおうとするが、この時信じられないことが起きた。


「お、お腹⋯⋯空きました⋯⋯」

「ん? ね、猫が喋ったぞ!」

「は、早く⋯⋯ご飯⋯⋯」


 どうやらこの白猫は空腹のようだ。

 だけど喋る猫か⋯⋯まさか魔物じゃないよな?

 まあもし魔物だったら倒せばいいだけか。


 白猫を一旦地面に降ろす。

 すると白猫はある一点を集中して視線を送ってきた。

 それはさっき俺が取ってきたホロトロ肉だ。


「そういえば猫は鶏肉が大好物だったな。ちょっと待っててくれ」


 俺は台所に向かい、血抜きと腸抜き、内臓の処理、毛抜きとホロトロを解体していく。そしてササミの部分を焼いて、白猫の元へと持っていった。


「どうぞ」

「ミャア⋯⋯」


 白猫はササミを食べ始めた。最初はゆっくりだったが、途中からガツガツと凄い勢いで口に入れていた。

 余程お腹が空いていたのだろう。

 でも何で白猫はこんな所にいたんだ? よくよく考えて見れば、この山奥に猫が一匹でいるなんておかしいよな。

 まあ喋る猫だから普通の猫とは違うとは思うけど⋯⋯


 そして白猫はササミを綺麗に平らげると、俺の肩に乗ってきた。


「わ、悪くない食事でした。一応感謝してあげます」


 な、何だこの上から目線の礼は。ツンデレというやつか?


「あ~⋯⋯うん。口に合ったならよかったよ。それじゃあ俺は旅支度をするから君も家に帰った方がいいよ」

「仕方ありませんね。あなたのお世話になってあげましょう」

「ん? いや、俺はもうここには戻って来ないよ」

「けしてご飯が美味しかったからじゃありませんよ。勘違いしないで下さいね」


 会話が噛み合ってないな。

 まさかこの猫、話し聞かない系か?


「私が何故喋るか、どうしてここにいるか気になりますよね?」

「いや、さっきも言ったけど俺はもうここを出て行くから」

「気になるって言って下さい」


 白猫は俺の顔にすり寄ってきた。

 今度はかまってちゃんか。この猫⋯⋯いくつ属性を持っているんだ?


「はいはい。気になります」

「ふふ⋯⋯そうですか。気になりますか⋯⋯では教えてあげましょう。私は聖獣白虎の血を引く、由緒正しき生物なのですよ!」


 この白猫は得意気な顔で、とんでもないことを口にするのであった。


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