第14話

門司港の緑豊かなゴルフコースの中で、月影玲奈と黒川真央は、それぞれのパットに集中していた。観客の息を呑むような静寂が漂う中、玲奈は緊張の色を浮かべながらも、その心には一筋の確信があった。「ここまで来たんだから、もう後戻りはできない。私は絶対に勝つ。」


玲奈はパターを構え、カップを見据えた。深呼吸を一つし、冷静にパットを放つ。ボールは緩やかに転がり始め、まっすぐカップへと向かう。「入ってくれ……!」玲奈は心の中で祈るように呟いた。だが、ボールはカップの縁に当たり、わずかに外れて止まってしまった。


「惜しい!」観客からの声が響く中、玲奈は落胆の表情を見せながらも、すぐに気持ちを切り替えた。「まだ終わっていない。次の一打で決めるんだ。」


次に真央がパットを構える。彼女の顔には緊張の色が浮かび、心の中では激しい葛藤が渦巻いていた。「私は負けたくない。でも、ここで冷静さを失ってはいけない。」真央は深呼吸をし、ボールに集中した。彼女のパットもまた、慎重に放たれた。ボールは滑らかに転がり、カップに向かっていく。


「入れ……!」真央は心の中で強く念じた。だが、ボールはカップの手前でわずかに止まり、その場で動きを止めた。真央の顔には焦りと失望が入り混じった表情が浮かんだ。


玲奈は再びパターを握りしめ、次の一打に全てを懸ける決意を固めた。「これが最後のチャンス。自分の力を信じて……」彼女は冷静さを保ち、カップに向かってボールを放つ。ボールは滑らかに転がり、まるでカップに吸い込まれるように入っていった。


「カップイン!」観客からの歓声が響き渡り、玲奈は歓喜に包まれた。彼女の顔には安堵と喜びが溢れ出し、全身が感動で震えた。


次に真央の番が来た。彼女も再びカップを狙い、決意を込めてパットを放つ。「私は最後まで戦う……」だが、ボールは再びわずかにカップを外れ、真央の勝利への道は閉ざされた。


玲奈の勝利が確定し、観客の歓声が一層大きくなった。玲奈は涙を浮かべながら、歓喜の瞬間を噛みしめた。彼女の目には、これまでの努力と支えが走馬灯のように蘇り、感謝の気持ちで溢れていた。


真央は悔しさを隠せない表情でありながらも、素直に玲奈の勝利を認めた。彼女は玲奈に歩み寄り、静かに手を差し出した。「おめでとう、玲奈さん。あなたの勝ちだわ。」


玲奈はその手をしっかりと握り返し、微笑んだ。「ありがとう、真央さん。あなたとの戦いは本当に素晴らしかった。」


二人の握手が交わされた瞬間、観客はさらに大きな拍手を送り、二人のフェアプレーを称えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る