第10話
大会最終日の朝、門司港のゴルフコースには、快晴の空の下、涼やかな風が吹き抜けていた。月影玲奈は、ウォームアップを終え、心地よい緊張感と共にティーグラウンドに立っていた。彼女の目には確固たる決意が宿っていた。
「今日は勝つわ、絶対に。」玲奈は自分に言い聞かせるように呟いた。
キャディーの蒼井佳奈がボールをセットし、彼女にクラブを手渡す。玲奈は深呼吸を一つし、ショットに集中する。視線の先には、広がるフェアウェイが見渡せた。
玲奈のスイングは完璧だった。ボールは空高く舞い上がり、真っ直ぐに飛んでいくかに見えた。だが、次の瞬間、ボールは突然右に大きくスライスし、ラフへと消えていった。
「どうして……?」玲奈は驚きと共にクラブを握りしめた。
佳奈も困惑した表情を浮かべていた。「大丈夫、次はきっと上手くいくわ。」
玲奈は再びティーグラウンドに立ち、再度ショットを試みた。しかし、またしてもボールはスライスし、フェアウェイから外れてしまった。続くホールでも同様の現象が繰り返され、玲奈の成績は急激に悪化していった。
その様子を見守っていた観客たちの中には、探偵の三田村香織と藤田涼介もいた。香織は目を細め、異常な現象に気付いたようだった。
「涼介、あのショット、何かおかしいわ。」香織は低い声で言った。
「確かに、普通じゃない。」涼介は頷き、玲奈の次のショットに注目した。
その時、玲奈はキャディーの佳奈と短い会話を交わし、再びクラブを構えた。だが、結果は同じだった。ボールは右に大きくスライスし、遠くのラフへと消えた。
「玲奈、何が起こっているの?」佳奈は不安そうに彼女に尋ねた。
「わからない。私のショットに何か問題があるのかもしれない。でも、こんなこと今まで一度もなかった……。」玲奈は困惑しながら答えた。
試合が進むにつれて、玲奈の成績はさらに悪化し、彼女の自信も揺らぎ始めた。観客の中には失望の声も聞こえ始め、彼女自身も心の中で焦りを感じていた。
一方で、玲奈のライバルである黒川真央は、絶好調のプレーを続けていた。黒川財閥の令嬢である彼女は、長い茶髪をなびかせ、整った顔立ちと自信に満ちた態度でフェアウェイを歩いていた。真央のキャディー、桜井良子もまた、背が高く引き締まった体つきで、プロフェッショナルなオーラを漂わせていた。
その時、香織と涼介は静かにコースを離れ、玲奈と佳奈の元へと向かった。香織は玲奈の目を見つめ、静かに言った。「何かがおかしい。私たちが調査を手伝うわ。」
玲奈は驚きと感謝の表情を浮かべ、香織と涼介に頷いた。「お願い、助けて。」
こうして、月影玲奈のプロゴルフ人生を揺るがす大きな事件の調査が始まったのだった。門司港の美しい風景の中で、真実を求める探偵たちの新たな戦いが幕を開ける。
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