第3話

白鷺大学のキャンパスは、昨日までの活気を失い、静寂に包まれていた。桐島悠斗が倒れたことで、駅伝部は一様に不安に苛まれていた。彼の体調不良の原因が判明しないままでは、選手たちの心も晴れない。そんな中、駅伝部の監督、沢渡蓮は一つの決断を下した。


「このままでは選手たちの士気が上がらない。探偵を呼んで、桐島の体調不良の原因を突き止めよう」


そうして選ばれたのが、三田村香織と藤田涼介だった。二人はその高い捜査能力と洞察力で数々の難事件を解決してきた名探偵コンビである。


香織は静かに立ち上がり、涼介と共に白鷺大学へと向かった。キャンパスに足を踏み入れた彼女は、異様な緊張感に気付いた。学生たちの顔には、不安と疑念が漂っていた。涼介はその様子を見て、「これは簡単な事件ではないな」と心中で呟いた。


まず、二人は監督の沢渡蓮と対面した。沢渡は深い溜息をつきながら、二人に事情を説明した。


「桐島は、レースの途中で突然倒れました。医師たちは原因を特定できませんでした。彼は一体何があったのか…。私は何としても真相を突き止めたいんです」


香織は真剣な眼差しで頷き、「お任せください。私たちが必ず原因を突き止めます」と応えた。


調査を開始するにあたり、二人はまず桐島が最後に食べた食事に注目した。栄養士の相馬奈央が特別に用意した特製パスタ。そのレシピや調理過程に何か秘密が隠されているかもしれないと考えた。


相馬奈央は、二人に対して協力的だった。彼女は詳しく料理の内容を説明し、材料や調理法について語った。しかし、何も異常は見当たらなかった。


「特製パスタには、鶏胸肉、ブロッコリー、ミニトマト、ニンニク、オリーブオイル、白ワイン、鶏ガラスープの素、塩、黒こしょう、パルメザンチーズ、フレッシュバジルが使われています。これらの食材に問題があるとは思えません」


香織は相馬の話を聞きながら、メモを取っていた。そして、次に選手たちの聞き取り調査を行うことにした。


駅伝部の選手たちは、桐島の倒れた瞬間を振り返りながら、口々に証言をした。彼らの証言は一貫していたが、その中に微かな矛盾が見つかった。


「桐島は普段、どんな食事を摂っているんですか?」と香織が質問すると、選手たちは一様に答えた。


「基本的には栄養士の指示に従って、バランスの取れた食事を摂っています。でも、時々自分で好きなものを食べることもあります」


この証言から、桐島が普段と違う食事を摂っていた可能性が浮上した。涼介はその点に注目し、さらに詳しく調査を進めることを決めた。


次に、二人は桐島の部屋を訪れた。彼の部屋には、レース前夜に食べた特製パスタの残りがまだ残されていた。香織はその一皿をじっと見つめ、何か見落としているものがないか考えた。


「このパスタ…見た目には問題ないように見えるけど…」と香織は呟いた。


その時、涼介が一つの瓶を見つけた。「これは…サプリメントか?」瓶のラベルを確認すると、スポーツ選手向けの栄養補助食品だった。


「このサプリメントに何か問題があるのかもしれない」と涼介は言い、成分表を確認した。その中には、桐島がアレルギーを持つ特定の成分が含まれていることが判明した。


「これが原因かもしれない…」香織は目を細めた。「でも、どうして彼はそんなものを摂取したんだろう?」


調査はまだ始まったばかりだった。桐島の体調不良の背後には、何か大きな陰謀が隠されているのかもしれない。香織と涼介は、さらに深く調査を進める決意を固めた。


次の手がかりを求めて、二人は再び関係者への聞き込みを開始する。桐島の倒れた原因を突き止めるために、彼らはどこまでも真実を追求していくのだった。

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