第2話

大会当日、北九州市の朝は澄み切った青空に包まれていた。白鷺大学のキャンパスは、駅伝大会を目前に控え、異様なほどの活気に満ちていた。学生たちが応援のために集まり、選手たちは最終調整を行っていた。桐島悠斗もその一人で、緊張と興奮が交錯する中、スタートラインに立っていた。


「大丈夫、絶対に勝てる」と、桐島は自分に言い聞かせた。彼の体は昨日のパスタでエネルギーを満たされているはずだった。しかし、彼の内心には不安がよぎっていた。体の異変を感じることなく、集中しようと努力する。


「よーい、ドン!」というスタートの合図が響き渡ると同時に、各チームが一斉に走り出した。観客の歓声が高まり、選手たちは一斉に前へと駆け出す。桐島は先頭に立ち、その俊足で他の選手たちを引き離していった。彼のフォームは美しく、力強かった。


最初の数キロは順調だった。桐島は他の選手たちとの差を広げ、観客の声援を一身に受けていた。しかし、次第に彼の体に異変が生じ始めた。心臓が早鐘のように鳴り、息が苦しくなってきた。視界が揺れ、脚が重く感じられる。


「こんなはずじゃない…」桐島は自分に言い聞かせ、ペースを落とさないように努めた。しかし、体は言うことを聞かなかった。彼の呼吸は次第に荒くなり、目の前が暗くなっていった。そしてついに、彼の体は限界に達した。


「桐島!」他の選手たちが叫ぶ中、桐島はその場に崩れ落ちた。意識が遠のき、地面に倒れ込む。その瞬間、レースの喧騒が一瞬にして静まり返った。


「救急車を呼べ!」監督の沢渡蓮が叫び、周囲の人々が一斉に動き出した。桐島はすぐに病院へと運ばれたが、彼の意識は戻らなかった。


病院の一室で、医師たちが桐島の体調不良の原因を探っていた。しかし、明確な答えは得られなかった。検査結果は異常なし。だが、彼の体は確実に何かに反応していた。


「一体、何が起こったんだ…」桐島の顔を見つめる沢渡蓮の表情には、深い苦悩と疑念が浮かんでいた。


白鷺大学駅伝部の希望の星であった桐島悠斗が倒れたことで、大会の行方は大きく揺れ動いた。そして、この事件が何を意味するのか、その真相はまだ闇の中だった。

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