4 勘違いしていい?

~次は、青東町、青東町……

—ぐ。

—来てしまった。

 胃の奥に石ができたみたいに、体が重たくなる。止まってほしい、とも、止まってほしくない、とも思う気持ちにさいなまれる。

 未生の祈りが届いたのか、届かなかったのか、バスは予想通り青東町で停車した。

ぷー、と停車音を上げて、バスのドアが開く。

ちら、と入口の方を見る。

ばちっ、と夏のアイス珈琲みたいに澄んだ濃い瞳と目が合う。

「あ、向坂さん」

「あ、えっと、どうも……」

どうもってなんだ、と未生は自分で突っ込む。

 未生を悩ませている彼女は、それに気づく様子もなく、本当になんでもないように、未生の隣に座る。

「え、宮埜さ、」

「向坂さんも同じバスなんだ」

「え、うん……」

なんで隣に、はさすがに失礼な捉え方をされる、と未生は言葉を喉に詰まらす。

「どうかした?」

「い、いや、隣……、座るんだなって。あ、いや、嫌ってことじゃなくて」

あぁ、と紫晴は納得の声を上げる。

「昨日、一緒がいいって言ってたから」

「え」

「え?」

—覚えてたんだ。

 昨日みたいに、ばくん、と心臓が沈むのを未生は感じた。一度では収まりきらなくて、心臓が焦るように血を全身に巡らせる。

「ごめん、帰りがよかった?隣の席がいいってことかと思って」

「いや、ちがくて、全然、本当、ありがとうございます」

 今国語のテストしたら赤点だ、と未生は思考を別の世界に飛ばして落ち着きを求める。

「ならよかった」

ふ、と紫晴が笑った。


肩で切りそろえられた彼女のショートボブが、するやかに揺れる。


—綺麗だ。


そう思った。


 その後は何を話していたか、何も覚えていない。

ただ、低くて心地良いハスキーなこえと、絹のように細くてつややかな黒髪だけが、未生の心臓に焼き付けられていた。


 ~終点、終点、新山代高校前です。お降りの際は、忘れ物にご注意ください。本日もご乗車、ありがとうございました。


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