3 本音だけききたい

「向坂さん」

廊下で呼び留められて、足を止める。向坂、と気軽に呼ばれる方が好きだ、と思いながら未生は振り返る。

紫晴だった。

「えっと、宮埜、さん、」

「あのさ、ちょっといいかな」

「え」

一対一のリンチとかあるの、と思いながら未生の手に汗が滲む。

「は、はい」

恐る恐る顔を上げる。

「生徒会入らない?」

「えぇ?」

思っていたのと違う、と情けない声が出る。

「あたし、生徒会なんだけど」

「うん、えっと、副会長、だよね?」

未生の問いかけに、紫晴は頷いて答える。

「生徒会って、部活入ってない人じゃないとだめでさ。今年本当に人いなくて、向坂さんって、確か部活入ってなかったなーって」

最底辺カーストの部活の有無とかよく覚えている、とか思って、いるどころではない。

「会計がいないんだ。向坂さん、確か成績もいいよね?だから、生徒会お願いしたいんだけど」

—宮埜さんに、お願いされてる。

 それがなぜか未生は嬉しかった。

「うん……、私でよければ」

ぱ、と紫晴の目が見開く。

「ほんと?ありがとう」

「いつから行けばいいかな」

「あー、でも、そんなに毎週毎週ってほど仕事ないから。代高祭近くなったら、バタバタだけど」

代高祭―確か去年、紫晴も生徒会劇をしていたな、と未生は思い出す。

—劇か。正直、最低カーストに人前で発表は厳しいんだけどな……

「とりあえず、集まる日にはまた教えるね」

「う、うん、わかった」

ばいばい、と手を振って、数歩歩いて紫晴が止まる。

「あ」

紫晴はポケットの中からスマホを取り出し、未生に差し出す。

「連絡先。交換しよ」

「あ、うん、はい」

—一軍って、こんなになめらかに連絡先交換するんだ、すごい……

一軍への尊敬と、改めて住んでいる世界の違いに身震いしながら、未生はスマホにQRコードを表示する。

「ありがと、じゃ、また今度」

「うん」

くるりと向きを変えて紫晴が歩き出す。

「あのっ」

「え?」

今度は未生が呼び止めた。

「帰り……一緒に、帰らない、ですか」

「帰り?あたしと向坂さんが?」

ばくん、と未生の心臓が沈む。

—そうだよね、さすがに最底辺と最頂点じゃ話にならないよね……

「あー、今日は放課後いつものメンツでカラオケなんだ」

「うん、そうだよね、ごめん、急に」

「また今度誘って」

それじゃ、と紫晴は未生を置いて歩き出す。未生は硬直したままだった。

—また今度誘って—って、本音?さすがに、社交辞令?

 ばくん。

 未生の心臓はまだ、音を立てていた。

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