運転する友人

番外編として、宝石を隠し終えてから拠点に戻るまでの車内の様子です。

地の文無しで会話のみになります。気楽に読んで楽しんでください。

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「宝石、無事に隠せてよかったですね」

「まぁ追手が来る気配もないし、ひとまずは安心だな」

「…………」


「ダンさん? 何かありました?」

「ん? いや別に?」

「あ、ごめんなさい。ずっと無言だったので、まだ警戒してるのかなと思って」


「ああ、いや。運転中は喋るのは得意じゃないんだ。さっきまではハイになってたから、アレコレ言ってたけど、本来の俺は落ち着いてゆっくり運転するのが好きなんだよ」

「それはジョークのつもりか? 自分の車をわざわざ200キロ出るように改造しておいて……」


「そっちは趣味だよ。実際にそれで走るわけじゃねぇ」

「てめぇの方がよっぽどギークオタクじゃねぇか」

「オタさん、根に持ってたんですね……」


「そういえば、オタさんって日本人なんですか?」

「ん? ああ、黒髪だからか。どうなんだろうな、知らねぇや」


「あ、すみません」

「ハリスから聞いたのか?」

「ハイ。孤児なんですよね。トゴメナのチャイルドスラム育ちだって聞いてます」


「あの野郎、人のことをペラペラ喋りやがって」

「俺たちのことをアレコレ調べたお詫びだって言ってましたよ」

「自分のことじゃなくて、俺のことをしゃべるのかよ!! ズルいなアイツ!!」


「……そりゃ、調べるように言ったのがお前だからじゃねぇか?」

「ぐうの音も出ない正論を言うなよ。黙って運転してろ」

「お前、今から降ろすぞ?」


「オタさんがフルネームを名乗らないのって、孤児だからですか?」

「うんまぁ、そんなところだ。一応あるんだが、今は名乗れないんだよ」


「今は? 何かあるんですか……?」

「あー、俺が前に捕まったって話は聞いてるか?」

「ハリスさんとダンさんから聞いてます」

「俺が知ってるのも、コイツから聞いた話だけどな」


「俺はチャイルドスラムのリーダーをやってたんだよ。そのまま大人になって、スラムの仲間とギャングチームを作ったんだが、調子こいて大きな仕事に手を出しちまってな」


「……その大きな仕事って?」

「…………知っちまったら後戻りはできなくなる。物事には順番があるんだ。それは今じゃないぜ」


「捕まったせいで昔の仲間も居なくなっちまったからな。今回の強盗が終わって、片づけなきゃいけない諸々を済ませたら、仲間集めからやり直しだ。やり直しの目途が立ったら、俺の名前の話もしてやる」


「俺の話はこのぐらいでおしまい。今度はポールの番だぜ」

「えぇ!? 俺は話せるような面白いことなんてないですよ」


「ベティと同棲してるんだろ? お前、ヘタレ面してるのにやるじゃねぇか」

「彼女にはグイグイ行きますよ!! って、何言わせてるんですか!!」


「ふぅ~。若いっていいね~」

「おじさん臭いぞ、ダン」

「30代は十分おじさんだろうが」

「今のリアクションは40、50代でしたよ……」


「お前ら、この車の運転手が俺だって忘れてねぇだろうな。今すぐたたき出してやってもいいんだぞ」


「で、ポールとベティは付き合って長いのか?」

「割と長いと思います。知り合ったのは2年ぐらい前ですし」

「どっちから声かけたんだ?」


「えーと、バイト先で出会ったんですけど、初日に2人とも大ポカやらかしまくって、すぐにクビになったんですよ。で、慰め代わりに飯に行って仲良くなりました」


「お前、意外とやるんだな。てっきり、ヘタレがギャルに食われたのかと思った」

「俺の方が年上ですよ!? そんな威厳が無いのは嫌ですよ~」


「年上って言ってもたかが1歳差だろ」

「でもベティって妹っぽいじゃないですか。実際、お兄さんが居るみたいですし」

「ああ、言われてみればそんな感じか」


「俺、この強盗で金貯めて、普通の暮らしが送れるようになったら結婚しようと思ってるんですよ」

「なんでいきなり死亡フラグぶっこんできたんだよ!!」

「自分で言って気づきました!! この後絶対に事故って俺が死にますよね!?」


「ふざけんなバカ。俺が運転してるんだから事故なんて起こす訳ねぇだろ」

「マジで頼むぞ、ダン!! コイツを殺さないでやってくれ」

「お願いしますダンさん!! 俺はまだ死にたくないです!!」


「ああ、うっとうしいからこっちを見るな!! 逆に手元が狂う!!」


「ダンさんとオタさんは、そういう話無いんですか? 俺ばっかり言わされるのはズルいっすよ」

「お前が勝手に言ったんだろ……」

「俺は故郷に幼馴染が居るな。今でも連絡取り合ってるし、向こうに戻ったら……。ああ、いや、何でもない。今のは忘れろ」


「オタさんは?」

「あー、俺も捕まる前はあったんだが、スラム時代からの仲なんで、思ってる感じとは違うぞ?」

「その頃から付き合ってたんですか? 熟年夫婦みたいじゃないですか~」


「まぁ、そうなんだが、アイツはそういわれるの好きじゃないみたいなんだよな。ベティよりもギャルっぽいって言うか……」

「アレもそれなりに賑やかだろ。それ以上ってのは凄いな」

「今は会ってないんですか?」


「捕まる前の話って言ったろ。一緒に出てきてないってのはだ」

「あ、すみません」


「おいおい、人の車でお通夜みたいな雰囲気出してんじゃねぇよ」

「こっちはドラマティック・エデンから借りてる車だろうが!!」


「細かいことはいいんだよ。ほら、拠点に着いたぜ」

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