取り立て稼業

 ジュエリーノゴ強盗の翌日。

 警察やギャングたちが強盗捜索をあきらめたスキを縫ってリチャードに宝石を届けた。実際に盗んだものを売りさばくのはまだ先であるが、すでに買い手は見つかってるらしい。


 宝石と引き換えに一時的な前金を貰ったオタは、【オーアレオ】の拠点近くまで来ていた。


「よお、ジョン。あれでもくたばらないのは運がよかったな」

「てめぇこそご立派にをやり遂げたみたいじゃねぇか」


 腕にギプスを嵌めて、包帯を巻いている白髪交じりの男。

 オタの飄々とした軽口も気にした様子はなく、依然よりもしわがれた声で金を催促した。


「わかってるよ。約束通り、1000万だ。たしかに、耳そろえて返したぞ?」

「おいおい、バカかてめぇは。ガキのお前に教えてやるが、借金ってのは利息が付くんだよ。タダで貸すような慈善事業に見えたか?」


「……なるほど? 計算しなおすといくらだ?」

「2000万だ。一応言っておくが、元からそういう約束だから、足りない1000万を待ってやる通りはねぇぞ」


 10日前と同じ、ネズミのはびこる裏路地で、ジョンはドスの効いた低い声で脅す。後ろについていた部下に命令すると、オタを車に詰め込もうと抑えようとする。


「おいおい、そのバッグの中身を確認しろよ。ちゃんと2000万入ってるぜ?」

「……なんだと? おい、開けろ」


 ジョンの近くに居た茶髪の青年が、ボストンバッグの中身を開ける。目一杯に札束が詰め込まれており、軽く数えただけでも確実に1000万は超えているだろう。


「利子ね。法外な金額であることには目を瞑るが、それはそれとしてきちんと用意してあるさ」

「檻の中に入れられても、こっちのルールは忘れてねぇみたいだな」

「あいにく様。この国自体が檻の中みたいなもんだ。向こうも大して変わりないさ」


「……相変わらず気に食わねぇ面だ。だがな、そうやって賢いふりをして俺を見下すのもそれまでさ」

「さすがに意味が分からないな? きちんと金は返してる。いい加減離してほしいんだけど?」


 オタの両腕をホールドする2人の男を軽くにらむ。少しひるんだような声を出して拘束が緩むが、しわがれた鶴の一声でさらにがっちりと掴まれてしまう。


「いいか、俺が貸した金は、利息にも利息が付くんだよ。だから、てめぇの借金は4000万だ」

「おいおい、そりゃさすがに言いがかりじゃねぇか? その理論で言うなら、どうやっても返せないだろ」


「利息の利息の利息までは取らねぇさ。だが、俺が取り立て屋と呼ばれる理由は分かったろ?」

「取り立て屋より奴隷屋の方が似合ってるだろ……」

「御託はいいんだよ。もう2000万用意できるのか? 出来ねぇだろ? 黙って俺と一緒に来い」


「……あの時の強盗、欲張って正解だったな」

「何をブツクサ言ってる? 早くそいつを連れて来い!!」


「おい、取り立て屋ジョン。こっちには4000万の用意だってあるぜ。俺の拠点まで送ってくれりゃ、もう2000万、いや、5000万だって払えるぜ?」


 声音こそいつも通り飄々としているが、その目つきはギラギラと燃え盛っている。5年前にラメカールを震撼させた大強盗の目つきである。あまりの気迫にジョンさえも押された。

 車に戻ろうとした老骨の足も止まり、再びゴミとネズミにまみれた路地裏に戻ってくる。


「てめぇ、あの強盗でどれだけ稼いだ? いや、そもそもお前があんなちんけな店を狙うのが怪しかったんだ。あそこに何があるってんだ!?」

「あの店はただの宝石店じゃねぇ。【ジョーヌゲミニ】が裏に潜んでる店だ。表には出せないようなヤバい宝石類を裏でやり取りするための仮宿だったんだよ」


「あいつらか……。ずいぶん金回りが良いとは思ってたが、そういう理由か。それを横取りしたなら、1億単位で持っててもおかしくねぇな……」

「まぁ、仲間への配分もあるから、全部俺のってわけじゃないけどな」


「……てめぇの借金を数え間違えてた。あと5000万足りねぇ」

「おいおい、随分金額が上がったな。耄碌して計算もできなくなったのか?」


「黙れクソ野郎。それだけありゃ、献上金で幹部までいける。わざわざ生意気なクソガキを迎え入れる必要もねぇからな」

「そりゃめでだいことだな。分かったら早く俺の拠点まで送ってくれ。


「うるせぇガキだ……。おい、放してやれ。これだけの人数に囲まれてりゃ、どうせ逃げられないだろうしな」


 背後で腕をつかんでいた2人の男は、おずおずとオタを解放する。

 ジョンが路地裏を横切るネズミに気を取られた一瞬。


 小さな銃声が汚い路地裏に響いた。バタリとジョンの体が力なく崩れた。

 同時に背後の2人も胸から血を流しており、痛みにうめきながら汚い水たまりに顔を突っ込む。


「うーん、さすがに3人が限界か。そっちは遠いもんな~」

「え、え、え……!?」

「じょ、ジョンさん!?」


「おい、誰が動いていいって言ったんだ? 死にたいのか?」


 頭から血を流す男に駆け寄ろうとした下っ端たちに銃を向ける。全員が一斉に銃を取り出そうとするが、手元や肩を撃ち抜いて動きを止めた。


「おい、ドライバー。悪いんだが、お前たちの拠点まで連れて行ってくれるか?」

「お、お願いします。こ、殺さないでください……」

「ギャングが命乞いなんて情けねぇな~。タクシー代は、そっちの死体2つでいいか? お前たちのボス取り立て屋ジョンの死体は他に買い取ってもらう予定だから、払えねぇんだ」


 生前の取り立て屋を乗せていた車は、彼の死体と血まみれのオタを乗せて、【オーアレオ】の拠点まで向かう。ノゴ地区を抜けてヤクム地区まで行くと、さらに綺麗な街並みへと変化していった。


 ビルが増え始め、民家も高級感のある庭園付きが多い。


「と、到着しました……」

「ありがとうドライバーくん。悪いんだけど、帰りも頼んでいいか?」


 彼の返事を待たずして、【オーアレオ】の拠点であるビルへと入っていった。周りに立ち並ぶ建物よりもほんの少し高い小奇麗なビルだった。


「入口を汚しながら出悪いんだけど、リオンに会わせてくれる? Oが死体を持ってきたといえばわかると思うから」


 老骨が血を流しながら引きずられているのを見て、フロントの女性は卒倒する。すぐに警備員がオタを取り囲んで銃を向けた。全員がダンよりもいかついスキンヘッドで、示し合わせたように同じデザインの黒いサングラスをかけていた。


「リオン様はお忙しいんだ。てめぇみたいなチャランポランが何の用だ?」

「チャランポランは酷いな。Oと呼んでくれ。それと俺も下っ端にかまってやれるほど暇じゃない」

「死にてぇらしいなクソガキ」

「おいおい、リオンに買い取ってもらう死体を増やしたいのか?」


 取り囲まれても飄々とした態度を崩さない彼に、周りの警備員がいら立ちを見せる。すると、ビルのエレベーターが動き出し、扉が開いた。


「全員、銃を降ろせ。お前たちが束になったって、死体の山が積みあがるだけだ」

「り、リオン様!!」

「久しぶりだな、リオン・スチュワート!!」


 鋭く尖った声。

 オタを取り囲む警備員たちは言われるがままに銃を降ろした。


 オタと同じぐらいの背丈で、紺色のスーツを着た男が現れる。

 ブランド物の金時計に、ワイルドにあげられた髪型。獅子を思わせる金瞳に、獰猛な笑みを浮かべている。服に縛り付けられているが、猛々しい表情を隠しきれていない。


 さすがのオタも、彼が目の前に立つことに威圧されて唾を飲み込んだ。


「こっちのセリフだ、オタ。あの仕事で失敗して死んだと思ったぜ」

「ご心配どうも。それより、取引の話をしないか?」

「……俺の部屋は散らかってるんで、フロントのでいいか?」


 リオンが指さす先には、柔らかな色をしたソファと木製のローテブルが置かれていた。まるでのような内装である。

 しかし、似つかわしくない死体の匂いが立ち込めていた。


「それで、取引の話って言うのは?」

「知っての通り、俺は【オーアレオ】から1000万借りてるよな? で、そいつの返済金がここにある。利子含めて2000万だ」

「……なるほど確かに受け取ったよ」

「ただな、が言うには2000万じゃ足りないって言うんだ。俺の借金はトータル7000万あるって」

「……5000万ほど足りないな」


「返したいのはヤマヤマなんだが、今回の仕事の前金はこの2000万しかないんでな。待っててもらうのも悪いし、別な返し方をすることにした」

「別な返し方……? オタがウチで仕事をしてくれるって話か?」


「いやね、リオンのグループはデカいからな。恨みを積もらせた奴も多いだろう。今は上手いこと抑えてるかもしれないが、徹底抗戦をしたがってるやつも居るだろうさ」

「昔はお前のところもヘイト役だったが、今は全部【オーアレオ】が引き受けてるよ……」

「その抗戦の材料として、コイツの死体は使えるだろな。ほかのグループに売っちまえば、5000万も用意できそうなんだ」


「あのな、そいつは取り立て屋としては有名だが、ただの下っ端だぜ? そいつの死体1つで都合よく5000万になんかなるかよ」

「そういえば、俺が仕事をしたときジョン以外にも【ジョーヌゲミニ】に追いかけられてな。コイツと揉めてる様子もあったな」

「……ずいぶん、金回りのいいお友達が居るんだな?」


「あそこなら5000万で買ってくれそうだと思っただけだよ」

「…………オタ、1つ聞かせろ」

「答えるかは別だけどな」


は復活するのか? それとも諦めてるのか?」

「ノーコメント」

「……そうか。また、お前と競い合ってドンパチ出来る日が楽しみだよ」


「そいつの死体、5000万で買ってやる。これで正式にお前の借金は無しになるな」

「助かるよ、リオン。こっちの2000万は、そのままここに置いていいか?」

「あとで部下を呼んで持たせるから心配しなくていい」


「ああ、それと、お前のところのドライバーを1人貸してくれ。帰りの足が無いんだ」

「好きにしろ。一応聞くが、死体はこれだけか?」

「いや、ジョンと会ってた場所に2つ残ってる。それはタクシー代として払うつもりだ」

「それも後で回収させる。場所を教えてくれ」


 オタが、手帳を取り出し待ち合わせ場所の住所を書く。その紙切れを受け取ったリオンは、軽く一瞥すると、どこかに電話を掛けた。

 受け取った紙をライターで燃やすと、ビルを出ていくオタを見送った。警備員に死体と金の入ったボストンバッグを持たせて、エレベーターで上へと昇っていく。


 窓ガラスから見える、飄々とした男を見下ろしながら。

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