第24話 丸い月
部活棟の二階、一階をぐるっと周る。
走るとぬるい風が起きた。
そこの角、あの柱の裏、いないことを確認するたびに毎回胸がキュッとなる。
私はこういう時、ヘッドホン先輩がどこにいるのか分からない。から。
「カブトとクワガタ捕まえた」
居候先輩が『萌えるゴミ』と書かれた文芸部のゴミ箱を抱えていた。
「代償は大きい」
ヘッドホン先輩はボロボロのボールを抱えながら、自分の手を見ていた。蚊にお手本みたいに二箇所刺されている。居候先輩が無理矢理連れ出したんだろう。
部室に帰る。
クーラーは、半径五十センチ範囲内しか涼しくする気がないらしい。
それぞれが各々に席に着くと、ブロッコリー先輩がヘッドホン先輩に目くばせした。
「あ…」
「あの、私の配慮が足りていなかったです。状況も今吞み込めたというか…だから、その、」
私はヘッドホン先輩の言葉を遮った。だけど肝心なところでつまってしまう。
「あ、えと…えっと…。俺は別にいいの。いや、行きたい、んだ。
だけどまだ、その、相手、に言えてないから…。
相手に言ってきます」
みんな涼もうと集まって、そのせいで暑くなって。
全く馬鹿みたいだ。
お菓子ドラフトなどをしていたら、あっという間に、七時。最終下校時間となった。
「え、職員室電気ついてなくね?」
うちの高校の数少ない決まりの一つ、部室の鍵は職員室に返しましょう。
焦りつつも、校舎を見渡すと、職員室どころか、一つの明かりもついていない。
「校舎に私たちだけってことですか!!ヤバいめっちゃワクワクする」
「こればれたらまずいんじゃない?」
「花火とか持ってくればよかったなぁ」
「いよいよ退学だろ」
大声で、そんな感想を述べても、𠮟る大人はいない。
「わ、月だ」
その日は、月が少し赤みを帯びていた。とても綺麗だった。
「このまま退学になってもいいかもしれない」
「それな」
誰もいない校庭へ続く階段に、みんなで腰掛けて、月を見た。
どこか欠けている私たちが、丸い月を見ていた。
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