第7話 決定
私は誰にも相談せずに志願書を提出すると1週間後の9月前半に連絡が入った。
「この日に面接をするから来て欲しい」
募集定員は14名、応募は16名とのこと。選考漏れをした場合は別の空いている研究室へ行くことになるのだけれどこれが結構色んな分岐点になってしまう。
例えば同じ電気を扱う学科でも研究内容が全然違う。テレビを研究しているとこに入りたかったけれど選考漏れして別の場所に行くとなると自分がやりたかったり興味がある内容の研究が出来ないことになってしまう。大抵の場合は「大学なんか卒業できればいいよ」と思うかもしれないが人によっては「この研究が出来ないのであれば大学に来た意味がないよ」よ思う人もいる。
先にも言った通り大抵の研究室はこういう時は成績順になるため、そういう思いをしたくないのであればしっかりと勉強して成績を上げておけよというはなしになるのだけれど、森田研の場合はそういう選び方をしない。
研究室に合う合わないを全員で見て決める。これは森田教授の意向でもあるのかもしれない。
「面接があるんですかぁ、大変ですねぇ」
部活の最中に後輩にこの話をするとこんな返事が返ってきた。1年後輩の彼は電気科ではなく機械科。私にとっての唯一の後輩でもある。
「じゃあ松下さん、落ちたらどうするんですか?どこか別のことに?」
そういわれた。まあこれは至極当たり前の質問だと思う。落ちたらどうするか。受験とかそういうのにも滑り止めとかあるわけだし。
けれど私はなぜだか知らないが「森田研に入れる」という圧倒的で絶対的な自信があった。それはもう山高く、海よりも深い絶対的自信が。だから面接が決まった時から全く何も対策はせずに「ここのまま行けばいい」という考えが頭の中にあった。
そんなある日の事。いつものように授業に出て講義を聞いているとある人物が後ろから話しかけてきた。
彼は・・・彼には失礼かもしれないが今まであまり関りがなかったものの、見たことはあったし少しだけ話したこともあるけれどそこまで良くは知らない人物。
私の大学ではあいうえお順にいろんなクラス分けが行われるためその順序で言えば私が「ま行」彼は「わ行」になるため健康診断とか体育のクラス分けとかそういう時に近い場所に居た人ではある。
「ねぇ、松下君・・だよね?森田研志望してたよね?」
面接の予定を言い渡されたとき、同時に面接の予定表も配られたのだけれどそこには私以外の希望者の名前が書いてあった。多分彼はそれを見て話しかけてきたのだろう。
「うん、君もでしょ?」
「そうなんだよねぇ・・・」
希望者のメンツはまるで申し合わせたかのように「仲の良いグループ」で固まってはいない。もちろん名前と顔は何となく一致する。そりゃそうだ、何となくだけれども約3年間は同じ学部に居たのだから。でも私が今まで全くと言っていいくらい話したことが無い人たちであることには変わりはない。
その中で言えば彼は一番知っていたというよりかは何というか。なんでだっけ。あやふやな記憶の中で少しだけ森田研について話をした。
「どうして森田研を選んだん?」
私がそう聞くと「バイト先の先輩がいて、それで行ってみようかなって」と返ってきた。
思い出した。そうだ、本屋でバイトしてた。それで何となく印象に残ってたんだ。なるほどそうか。と私は1人で納得していた。
「その先輩が言うには〝森田研はあんまり評判が良くないから多分選考とか無いと思う〟かもって言われて希望出したら面接で・・・」
つまり彼的にはこの選考自体が無いものだと思っていたらしい。そう言われていたのであればそう思っても仕方がない。
「まあオーバーなのは仕方ないよ、受けてみるしかない」
という全く励ましにもならない言葉を言ったのだけは今でも覚えている。これに関しては本当にそのまんま。出たとこ勝負で行くしかない。
そして面接の日がやってきた。
放課後、いつもならば部活に出ている時間に私は面接が行われている講義室へ向かった。自分の面接予定時間の大体10分前に行けば大丈夫だろうと考えていたのだけれど到着すると2人ほどが並んでいて、その人たちは私を見るなり
「1時間くらい遅れてるみたい」と教えてくれた。
面接の予定が書かれた紙には確かに「面接によって時間が前後することが有ります」とは書いてあったものの1時間の遅れ。講義室からは話し声と時折笑い声が聞こえてきたため面接をやっていることは確からしい。
「さっきちらっとドアの隙間からなかの様子を見たんだけど、凄い人数いたよ。面接官」
「そうなの?」
「うん。十数人くらい」
「そんなに?」
先に居た人が言うにはどうやら面接は「森田研に在籍している人」ほぼ全員で行っているらしい。そりゃ時間かかるのは無理もない。私は中から聞こえてくる声を聞きながら順番を来るのを待つことになった。
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