第6話 何も知らないけれど

 一通り案内が終わると研究室の隅っこのほうにある喫煙所っぽいところに連れていかれた。灰皿を置いてある台はどこからどう見ても木製の手作り感満載の物。ポケットから煙草を取り出し、お互いに火を付けるとそこから何も知らない研究室の話をすることになる。


 と思った。


 いや、研究室の話はしていたんだと思う。現に本藤君は「森田研は忙しいんですか?」とか「就職はいいんですか?」とかそんな感じの事を聞いていてそれを確かに私も脇で聞いていたのだけれど如何せん頭に全く入ってこない。


 というよりも私自身がこういう「何か自分の進む道を決める」というタイミング、重要な選択を行う時、参考になればと話してくれている人の話を全く聞かないという性質がある。現に工業高校にいくことも今の部活をやることも他人の意見を全く聞かず自分で勝手に決めてしまった。


 どうしてそうなのだろうか?と考えたこともあるのだけれど答えっぽいものはあんまり見つからない。


「こういう時、人ってどうせ良い事しか言わないから」


 と思っていたこともある。


「・・・そっちの君は名前、なんていうの?」


「あっ私ですか?」


 本藤君との会話がひと段落したのか今度は私の方に話しかけてきた。


「松下っていいます」


「松下君はどこから来たの?」


 そこから身の上話が始まってそれで私も結局ありきたりなことを聞いた。けれど私自身が聞いたのは一つだけだった気がする。それが部活と両立できるのかということ。もちろん答えは「やれる人はやってる」とのことだった。


 見学が終わって帰り道。私は本藤君と研究室をどうするか少しだけ話し合った。


「俺は・・・うーん、別のとこにするかなぁ」


 何となくそんな気はしていた。結局、私は私であるがままの道に行くとき、大抵いつも1人なのはお約束。


「仲のいい知り合いと何かをする」


 という経験はここまでの人生であまりない。だからきっと今回もそうなのだろうと何となく感じてはいた。


 結局、たった一度の見学だけでわかることなんかそんなにない。けれど何となく雰囲気は悪くなさそうな感じはしたことは確かでもある。


 その後研究室見学の期間は続いたが、私は森田研究室以外の場所を見学に行くことは無かった。


「どうせここに入ることになるだろう」と心の中で思っていたから。


 自分の入りたい研究室が決まったら「志願書」のようなものを書いて提出する。研究室によって人気・不人気があるのは言うまでも無いので当然定員オーバーになることも。そういう時は選考が行われるのだけれど大抵の場合は成績順。それか教授の指名とかそういう風になるのだけれど、森田研の選考方法は一味違っていた。


「教授を含め全員とのグループ面接」である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る