第3話 演習前半戦
琥珀とペアを組むことが決まり、無事に天也は参加の締め切りに間に合った。
琥珀は天也愛着が湧かないと、出会った次の日から天也のことを
それから1週間が経過し、演習用のグループが書かれた紙が廊下に張り出された。
グループはA~Dグループに分けられており、天也達はCグループに配属された。
そして演習が始まる前日となり、生徒たちは演習が行われる天道家が所有する森へ集まっていた。
この森は学園から見える大きな山のふもとにある森で、人の手で作られた人口の森でもある。
天也は琥珀と共にテントに向かうとあろうかことか追い出されてしまった。
テントの中ではCグループの生徒たちがクスクスと笑っていた。
女子生徒「庶民は入らないでくれる?」
話しかけてきた女子生徒は
秋葉家が運営する秋葉グループは軍人から一般人まで、幅広い層に向けた食料品を製造している大企業であり、Cグループでもっとも位が高かった。
美結「それにその子はもしや戦術オートマタですか?」
琥珀「わしか?わしは戦術オートマタの琥珀というものじゃ」
美結「そんな型落ちの武器では役に立たないでしょう?」
美結「もう一度、培養層から作り直してもらってはどうですか?」
美結の発言は戦術オートマタにとって最大限の侮辱だ。
その発言の意図は再構築といって罪を犯したり、軍にとって不必要となった戦術オートマタを培養層につけて体をリセットすることを指している。
それを行うと戦術オートマタは人格を丸ごと消去されるため、戦術オートマタにとって実質的な死と同義であった。
美結の侮辱を聞いた琥珀は今にも殴りかかりそうな勢いだったため、天也はあわてて止めた。
琥珀「離すのじゃ!天坊!」
天也「今ここで問題を起こせば、卒業はおろか退学になってしまう!」
天也「そうなったら、本当に再構築されるぞ!」
天也の発言を聞いて琥珀はようやく我に返ったようだ。
それから女子生徒は天也たちを無視してテントの中に入っていった。
琥珀「すまん天坊・・・」
天也「別にいいよ、美結っていう奴の発言は僕も頭に来たからね」
天也「どうせなら、演習でいい結果を残して見返してやろうぜ」
琥珀「そうじゃな、天坊の言う通りじゃわい」
琥珀「格下と思っとったものに先を越されたときの、あやつの顔を見るのが楽しみじゃのう」
その後天也と琥珀は森の木や葉っぱを利用して、1時間程で自前のテントを用意してしまった。
天也も優秀だったが何より琥珀の怪力や、刀を利用してすばやく材料を揃えられたのが大きい。
それから日もすっかり暮れて夕食の時間になった。
今日の夕食は学校が用意した軍用の携帯食料が配布される予定である。
美結は支給される食料が自社の製品だとグループの人たちに食料を渡す際に自慢して回っていたが、なぜか天也と琥珀には食料を配布しなかった。
美結「あなたたちにあげる食料はないわ、役立たずにあげてもフードロスにしかならないし」
美結はそう言って自分のテントに戻っていった。
美結の態度に天也達は特に怒りをあらわにすることなく、いつものように冷静だった。
琥珀「まさか天坊の言う通りになろうとはな・・・」
天也「昼間の態度も悪かったから、なんとなくこうなる気がしただけだよ」
天也達は事前に食料を集めていた。
天也には美結が食料を渡さないことを予想していたからである。
案の定食料は渡されなかったが、天也達にとって何の問題もなかった。
森には川が流れており、水質が良いからか鮎が何匹もとれる。
地上にも食べられる野草や、キノコなどが自生しており、例え食糧がもらえなくても何日でも生活することが出来た。
天也「けど美結の行動が先生たちにバレたらやばいんじゃないかな」
琥珀「食料の独占や横領は軍法違反じゃからのう」
琥珀「それにしても、天坊がここまでサバイバル能力が高いとは思わなかったぞ」
天也「咲姉ちゃんと妹の愛理に鍛えられたからね・・・」
あの訓練はもう思い出したくもない。
黒木家にいた頃、森で遭難したことを想定した訓練をやらされたことがある。
その時は数か月間森の中から出ることを許されず、咲直伝の拠点建築能力と愛理直伝の野草の知識が無ければとっくに死んでいたかもしれない。
それよりも危険だったのは帰ってきた瞬間、心配した由利姉さんに抱き着かれて大きな胸のせいで息が出来ずに死にかけたことだけど・・・
天也「今日の所は早く寝ようか」
琥珀「そうじゃな」
その日は自作テントで眠りについた。
次の日になり、Cグループは一か所に集められた。
前にはCグループを担当する男性の教師が立っており、名札には
梶「今日からこのグループを担当することになった、梶蒼汰といいます」
梶「担当ではありますが、私はケガ以外では基本的に皆さんに関与しません」
梶「ですので自主的な行動を心がけるようにしてください」
梶がそう言うと、その場から職員用のテントに戻っていった。
梶の言う通り今回の演習は、森での生活能力や戦闘能力を鍛える目的で実施されている。。
この演習は合計で1か月だが、前半と後半で内容が異なっている。
前半は拠点設営能力やチームワークを評価し、後半では非殺傷の銃を用いて射撃演習を行いその時の成績で評価するのだ。
集められたCグループは天也達を置いて、8人だけで作戦会議を始めてしまった。
琥珀「どうするのじゃ?天坊」
琥珀「このままでは評価の対象にならんじゃろう」
天也「多分大丈夫だと思うよ」
天也「じつはこっそりこの学校の
琥珀「そこまで少ないのはなんでじゃ?」
天也「昔から貴族ってプライドが高いからかチームワークが悪くてさ、学園側も進級させないわけにはいかないからチームワークに限っては評価を甘くしてるらしいよ」
琥珀「なるほどのう」
それから数日かけて天也は琥珀と共に、自分たちで土嚢や木製の建造物などを建てて立派な拠点を建設してしまった。
ふとCグループの様子が気になり、見に行ってみるとなにやら揉めていた。
美穂「あかりさんこちらの木材、いい加減運んでくださる?」
あかり「美穂さんも手が空いてるじゃないですか、それにそんな汚いもの触りたくありません」
雄斗「海斗、その食料もらっていいか?全然足りないんだよ」
海斗「はぁ?いくら兄貴でも貴重な食料をやるわけないだろ?」
その4人の様子を見ていた美結は、取り巻きの一人に世話をしてもらいながらテントで高みの見物を決めている。
そんな中一人の女子生徒が声を上げた。
女子生徒の名は確か
そばには
真奈「みんな協力しようよ、このままじゃ成績が悪くなるよ」
美紀「真奈の言う通り、みんないい加減協力しなきゃ」
すると海斗が真奈に向かって詰め寄った。
海斗「うるせぇな、だったらお前がなんとかしろよ」
真奈「え・・・?」
海斗「この数日ここで過ごしてみたが、いい加減こんな生活限界なんだよ!」
海斗は威圧しながら、真奈の胸ぐらを掴んだ。
真奈「ひ・・・」
海斗「今すぐ追い出してやろうか?あの庶民のようにな!」
あまりに見苦しい状況に嫌気が刺したのか、二人に琥珀が話しかけた。
琥珀「まぁ落ち着くがよい」
海斗「あぁ?誰だお前?」
琥珀「わしか?わしは琥珀じゃ」
海斗「お前がこのグループに入った役立たずの戦術オートマタか」
琥珀「なんとでもいうがよい」
海斗「それで何しに来たんだ?」
海斗は真奈を離すと、琥珀に近づいてきた。
琥珀「何、あまりに滑稽じゃと思ってな」
琥珀「助けが必要なら、わしが手伝ってやろうか?」
海斗「うるせぇんだよ!」
海斗は大きく腕を振りかぶり、琥珀に殴りかかった。
だが拳は琥珀にあたることなく、海斗は殴りかかった勢いに負けてそのまま転んでしまった。
琥珀「おや、いきなり転びおってどうしたというのじゃ?」
琥珀「食い物でも見つけたのかのう?」
海斗「クソがぁぁ!!!」
すると双子の兄である雄斗が止めに入った。
雄斗「いい加減にしろ海斗」
海斗「離せよ!あいつを一発殴らねぇと気が済まないんだよ!」
海斗が暴れたとたん、雄斗はある技を使って海斗を突き飛ばした。
琥珀「ほう、この技は・・・」
海斗は遠くに飛ばされて、あまりの風圧に気絶してしまった。
琥珀「おぬしはまともに話ができるようじゃの」
雄斗「すまんな、あいつは一度頭に血が上ると手が付けられないんだよ」
雄斗「それで手伝ってくれるのか?」
琥珀「それはそこにいる美結とかいう生徒の態度次第じゃの」
美結は琥珀の発言に憤怒していた。
美結「はぁ?役立たずに頭を下げるわけないでしょ?」
琥珀「役立たずなのはお主じゃろ?さんざん人をこき使っている割にはまったく拠点が出来ていないではないか」
美結「それはあんたたちだって同じでしょう!?」
琥珀「わしの後ろを見て気付かんのか?」
美結は琥珀に言われるがまま、後ろを見るとそこには木造の立派な拠点が出来ていた。
美結「うそでしょ?まだ3日しかたっていないじゃない!」
琥珀「お主が庶民と言って迫害した天也が、この演習では非常に優秀でのう」
琥珀「おかげで毎日焼き魚パーティじゃわい」
美結たちの食事は携帯食料ばかりで、味気ないものが多かった。
それに携帯食料だけではあまりお腹は膨れない。
天也たちとの生活レベルの差は明確であった。
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