8 贅沢な生活

 私が白豚に呼び出されたことを知り、両親が心配して見送りに出てきた。


「一体、殿下は何のために呼び出したのだろう……」


「もしかして婚約のことについてかしら?」


父も母もオロオロしている。


「私なら大丈夫です、お父様。お母様」


笑顔で両親の顔を交互に見詰めると、笑顔を浮かべた。

むしろ婚約破棄を言い渡されるなら万々歳だ。


私は背後をチラリと見た。

少し離れた場所には、馬を連れたグレイと迎えの馬車が待機している。

何しろ、グレイという素晴らしい目の保養相手が出来たのだ。あんなに素敵な男性がお供をしてくれるなんて幸せだ。


「アレキサンドラ様、そろそろ出発してもよろしいでしょうか?」


グレイが声をかけてきた。


「ええ、大丈夫。今行くわ。それではお父様、お母様。行ってきますね」


2人に声をかけると、グレイの元へ向かった。


「では、参りましょうか?」


「ええ」


馬車に乗り込むと、グレイが扉を閉めてくれた。

彼は軽々と馬にまたがると、窓から覗いていた私に笑みを浮かべる。


うっ! なんて素敵な笑顔なのだろう。


「出発致します」


グレイの言葉に、馬車はゆっくりと走り始めた。



「……それにしても、大きな馬車ね……」


馬車内はノルン公爵家の約2倍はありそうな広さだった。恐らく、巨漢たちが乗るのでこんなに大きな造りをしているのだろう。


「全く持って、無駄としか言いようが無いわね」


肥満体の身体には無駄なことが多すぎる。きっとあれだけ太っていれば、1人で服を着る事すら出来ないだろう。

入浴だって無理だろうし、少しでも歩けば息切れが起こるはず。


まぁ、だからこそ裕福な貴族だけが太っていられるのだろう。何から何まで手助けしてくれる使用人達がいるのだから。


そこで、はたと気付いた。


「ううん! 駄目よ! デブのことばかり考えていたら、自分までデブになりそうだもの!」


そうだ、こんな時こそ目の保養だ。


早速馬車の外に目を向けると、馬にまたがるグレイの姿が見えた。

筋肉で引き締まった身体は背筋がピンと伸びている。まさに理想的な体型だ。

おまけにハリウッドスター並みのイケメンぶり。


するとグレイは私の視線に気づいたのか、こちらを振り向いて笑みを浮かべる。


「アレキサンドラ様、馬車の乗り心地はいかがですか?」


「そうね。私には大きすぎるけど、乗り心地は最高よ」


やはり王族が所有するだけあって、最高級の乗り心地だ。これならいくらでも乗っていられそうだ。


「それは良かったです」


グレイは笑顔になると、再び前を向いた。

……やはり、彼は横顔も素敵だ。


再び馬車内を見渡すと、あのデブ男の顔が脳裏に浮かんでくる。


全く、あんな白豚にはもったいない馬車だ。こんなに乗り心地が良ければ、歩くこともせずに肥満度が増していくだろう。

だが、これでは馬車を引く馬が気の毒だ。


「また、あのデブに会わなければならないのね」


用件だけ聞いたら、さっさと帰らせてもらおう。


どうせ向こうだって私のことを嫌っているのだから――



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