7  ドンピシャ

「お待たせしました」


声をかけながら応接室に入ると、ソファに座っていた人物が立ち上がってこちらを振り向いた。


「いえ、こちらこそ早朝から訪ねてしまい、申し訳ございません」


「え?」


訪問した相手を見て、私は思わず足を止めてしまった。


その人物は青年だった。

銀色の髪に、神秘的な緑の瞳。軍人なのだろうか? 濃紺の身体にフィットした詰め襟の隊服姿をしている。

引き締まった身体にスラリと伸びた長身。何より、まるでハリウッドスターのような整った顔は私の好みにドンピシャだった。


「素敵……」


思わず見惚れて、心の声が漏れてしまう。


「あの……? どうかされましたか?」


青年は不思議そうに首を傾げる。


「い、いえ。何でもありません、とりあえず座ってお話しましょう」


「そうですね」


いそいそとソファに座ると、青年も座った。


「それではまず初めに貴方のお名前から教えて下さらない?」


「はい。私はグレイ・ボナパルトと申します。エマール殿下直属の近衛兵です」


ボナパルト……あのナポレオンと同じ名前だ。


「そうですか、なるほど。それで年齢はおいくつですか?」


「年齢は24歳です。近衛兵になって、4年になります」


22歳か……私の年齢が21歳、3歳差だ。釣り合い、取れているじゃないの。

私の目つきが獲物を狙うハンターに変わる。


「では、もう一つ質問をします。結婚はしていらっしゃいますか?」


「え? しておりませんが?」


「なるほど、結婚はまだということですね。それでは婚約者や将来を約束した恋人のような方はどうですか?」


「は? な、何故そのような質問を?」


グレイの顔に困惑の表情が浮かぶ。


「ちょっとしたリサーチです。私にとっては必要なことですので。で、どうなのです。いるのですか、それともいないのですか?」


「婚約者や、恋人のような存在はおりません……何しろ、我々近衛兵は皆このように見栄えの悪い……姿をしておりますから」


グレイが寂しそうに俯く。

な、なんてことだろう……! やはり、この世界は狂っている! こんなに完璧な外見の青年が、自分のことを見栄えが悪いなど言うなんて!

だけど、婚約者も恋人もいないなら好都合!


バンッ!!


私はテーブルを思い切り両手で叩くと、グレイの両肩がビクリと跳ねる。


「いいえ!! そんなことありません!! どうか自分を卑下しないで下さい!!」


「え?」


「貴方のように素敵な男性を見るのは、生まれて初めてです! 貴方のことを見栄えが悪いという人物がいるのであれば、相手の目か頭がイカれているに違いありません!」


グレイは、驚いたように目を見開いて私を見ていたが……。


「プッ」


突然吹きだし、俯くと肩を震わせはじめた。


「あの〜……? グレイ様?」


思わず声をかけると、グレイは顔を上げた。


「も、申し訳ございません。アレキサンドラ様のお話が面白くて……つい、笑ってしまいました。それと、どうぞ私のことは様付けでなく、グレイと呼んで下さい。何しろ、私は貴族ではありませんから。敬語の必要もありません」


「分かったわ、グレイ」


「本当にありがとうございます。そのような嬉しい言葉を頂けるとは思いもしませんでした。アレキサンドラ様も、とても素敵な女性だと私は思いますよ?」


笑顔で私を見つめるグレイの言葉に思わず顔が赤くなる。


「あ、ありがとう」


「アレキサンドラ様、申し訳ございませんが殿下がお呼びです。ご足労ですが、一緒に城まで来て頂けませんか?」



白豚のくせに、この私を呼び出すとは……なんて生意気な。何故あのデブのために、私が足を運ばなくてはならないのだ?

だけど、グレイを困らせるわけにはいかない。


「ええ、分かったわ。何処へでも行こうじゃないの」


私はにっこり微笑んだ――





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