怪談

黒兎 ネコマタ

A改めBの肝試し

「なぁ、こんな話、知ってるか?」


 長い長い一日が終わりやっと学校から開放される放課後、僕の唯一の友達にして校内でも結構な変人扱いを受けているクラスメイト──仮にAとしよう──Aが話しかけてきた。


「数年前の事だ。とある豪雨の日、ソイツ──仮にAとでもするか」


 おい待て、仮名を被せてくるな。仕方ない、コイツはBとしよう。


 Bは興奮気味に続けた。


「Aは生徒会の用事で遅くまで学校に残ってたらしい。帰る頃には真っ暗だった。そんなAが彼処の横断歩道を渡ろうとしたとき──」


 そこでBは僅かに間を開けた。あ、ちなみに彼処の横断歩道っていうのは学校の前にある横断歩道のことだ。信号ないくせに中々車通りが多い。抜け道にでもされているのだろう。


「暗闇に加え豪雨で前が見にくかったのか結構なスピードで車に衝突されたらしい。しかも何がやばいってその車はそのまま走り去ったらしいんだよ」


 俗に言う轢き逃げだな。もしかしたら動物か何かと思ったのかもしれないけど……このあたりはイノシシなんかもたまに出るのだ。


「んで更に残酷なのがこの後よ。やっぱり依然として前は見えにくい、そんな状況で道に人が倒れてても気づかないわけだ。後続の車にどんどん轢かれて最終的に通報された時は肉体の原型を留めてなかったらしんだぜ」


 まぁたまにとはいえイノシシやイタチなんかも引かれてるしな、やっぱり動物だと思って誰も通報しなかったんだろう。


「しかもしかもだぜ? なんと轢かれたAは途中まで意識があったらしい。やばいよな、何度も何度も轢かれ続けたってことだろ?」


 そうだね、相当痛かっただろうさ。

 んーで、変人の君がそこまで興奮するってことは続きがまだあるんだろ?


「あぁ一言余計だが、よく分かってんじゃねぇか。なんとなそのAは轢かれ続けたことで殆どの内蔵が飛び出ちまって今では雨の日になるとうちの生徒にこう言うらしい──」


 そこでまたBは間を開けた。


「──ねぇ、君の内蔵がほしいなぁ」


 とびっきり低い声で言うB。うん、顔が面白い。


「そういう時の対処法はな、コレだ」


 そう言ってBがポケットから取り出したのは……おもちゃの臓器? それも二つ。これが対策になるの? 普通におもちゃだって分かるけど?


「いや噂ではそうだから大丈夫。実際に会ったやつが言ってたし」


 実際に会ったって、ソイツは何でおもちゃの臓器なんて持ってたんだよ……


「なんか丁度理科室の人体模型から抜き取ってたらしい、変なやつだけどそれで救われたんだから良かったよな」


 ふーん……まぁ僕には関係ないな。


「ったく、なんだよつまんねぇな。嘘だと思ってんのか?」


 あのね、そんなこと起こるわけないでしょ、常識的に考えて。変人にバカまで加わったらどうしようもないよ。


「言ったな、じゃあ──」


 Bはニヤッと笑った。って、コイツまさか……


「肝試し、行くぞ」


 今日はまさに雨が降っていた。


 ◇ ◇ ◇


 ──はぁ、どうしてこんなことに。


 僕は夜中、雨が降る中Bを待っていた。手にはBから渡されたおもちゃの臓器。ったく、こんなもんでなんとかなるなんて本気で思っているんだろうか。


「悪い悪い、待たせたな」


 そう言ってBは現れた。雨はさっきより強くなっている。うん、まるで事故当時みたいだな。


「そういやお前今日誕生日なんだってな、ドンマイ」


 ドンマイ?


「いや実は一説ではAが事故った日も今日らしいんだ。だからドンマイ」


 へぇ、よく知ってるね。


「まぁ気になって調べたからな……しっかし、どんな感じで声かけてくるんだろ」


 さぁ、こんな感じじゃないかな?


「ねぇ、君の臓器を頂戴??」

「お、おぉ。意外と上手いじゃねぇか……」


「ねぇ、頂戴ってば」

「は? もう良いって、ビビらせんなよ」


 ビビらせる? 何言ってんの? 君が自慢げに語ってたじゃない。


「だからそれは死んだAのことで……」


「どうして君が学校一の変人扱いされるか、考えたことある?」


「は? し、知らねぇよ……」


「君は一人で喋ってるように見えるからだよ。だって……他の人には僕が見えないからね」


「お、おい。冗談は寄せって……」


「残念、冗談じゃないんだぁ。ほら見て?」


 僕は下を向くと頭の後ろを軽く叩いた。それだけで視界が奪われる。


「ヒッ……!!」

「ほらぁ、目無くなっちゃった。代わりに頂戴よぉ」


 ありゃりゃ、舌も上手くくっついてないから喋りづらいや……早くほしいなぁ。


「食べ物も食べれないんだよぉ、消化できないから」

「やめろ、来るな……来るな!」


 ねぇ、頂戴よぉ。


「止め……あ、そうだ。こ、これ。コレやるよ!」


 そう言って僕になにかが投げられる。僕は手探りで落ちた何かを拾う。これは、おもちゃの……


「普通におもちゃだって分かる、って言ったよねぇ? 聞いてなかったの?」

「嘘だ、そんなわけ。だ、だって……」

「だってぇ、僕、誰も逃したことないもん」

「いや、いや……やめろ、やめ──」


 フフ、じゃあねお馬鹿さん。

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