第46話 祖父の提案
扉がノックされ、入ってきたのは、ばあちゃんと莉緒だった。
「莉緒!」
「莉緒ちゃんにも来てもらったよ。これまでのこと、これからのこと、どちらも話さないといけないと思ってね」
「何を話すと言うんですか!この女がいるから勇太が」
「黙りなさい!お前のせいで苦しんだ2人にこれ以上ひどいことを言うのは私が許さない」
「父さん」
「謝って済むことではないけれど、2人にきちんと謝るんだ」
「嫌です、悪いことはしていない」
正そうとするじいちゃんの言葉を受け入れる気がない親父は、莉緒を睨みつけていた。
「謝らないと言うなら、こちらにも考えがあります」
「母さん!」
「あなたが莉緒ちゃんを気に入らないのはどうして?」
「それは…不釣り合いだと…」
「何が不釣り合いというの、こんなに勇太のことを思ってくれる優しい子なのに」
「育ってきた環境や境遇が違いすぎて」
「そう、それなら私やお父さんもあなたには不釣り合いになるわね」
「…そんな」
「あなたの言ってることはそういうことよ。そばにいる私達も排除するの?」
「父さんや母さんは別で…」
「あなたが育ってきた環境は私達が作ったものだけれど、それが偉いとか間違ってるかなんて決めつけるものではないでしょう。あなたの子どもの勇太はそんなにみんなと違うの?親にとってはみんな同じでしょ」
ばあちゃんに言われて、何も言い返せないでいるとじいちゃんが話しだした。
「お前のその考え方を正せなかった私達が悪い。今ここで正しても莉緒ちゃんの未来を潰してしまったことは変えようもない事実だ。だからこそ、どれほど謝っても許されないとしても謝るところからはじめないとお前は何も変わらない」
「…」
長く考えている親父を見て、じいちゃんが話を変えた。
「それでな北海道の話なんだが、お前がプロジェクトリーダーで進めているから、がっつり任せようと思ってな」
「それはいいけど…」
今の状況で莉緒と離れるのは不安でしかなかった。
「莉緒ちゃんのことを心配してるんだろ?それなら大丈夫、莉緒ちゃんも北海道に行ってもらうから」
じいちゃんの言葉を聞いて、きょとんとする莉緒と目が合い、お互い首を傾げるとばあちゃんが笑い出した。
「あなた、ちゃんと説明しないと2人ともわかってないわよ」
「そうだな、莉緒ちゃん」
「はい」
「莉緒ちゃんの勤めてるホテルは北海道にもあるよね?」
「はい、札幌にあります」
「ホテルにも迷惑をかけたから謝りに伺ったんだが、直属の上司の真木さんとも少し話をしてね。環境を変えてみてはどうだろうかと提案されたんだ」
「環境…」
「莉緒ちゃんが独り立ちできるように前々から考えてはいたらしいんだが、北海道のイベント事業部の人間が産休で休むことになって、そこを莉緒ちゃんに任せたいらしいんだ」
「そんな、私には無理です」
「やってみないとわからないもんだよ、私も若い頃はいろんな失敗をしたけれど、助けてくれる人がいたから今があるんだ。君には真木さんがいるし、私達や勇太もいる、飛び込んでみるのも手だと思うよ」
ずっと黙っていた親父が口を開いた。
「勇太と彼女を北海道にやるのは私から離すためですか?」
「そうとってもらってもかまわん。お前の手の届かないところで始めさせてやりたんだ」
「…」
「ホテルの上の人にも話は通してあるみたいだから、あとは莉緒ちゃんの気持ち次第、2人で決めればいい」
「私達はどんな答えでも応援するから」
2人が笑顔でそう言うと、不安げだった莉緒の顔が明るくなった。
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