第45話 ふたりを守る

 3人で会社に来たけれど、おじいちゃんに待っててほしいと言われて大きな応接室におばあちゃんと2人で通された。出された温かい飲み物を飲みながら、おばあちゃんが静かに話し始める。

「私が主人と話すようになったのは、主人がお店を始めたばかりのときでね、私が働いてた近所の定食屋に毎日食べに来てたの」

「毎日ですか?」

「そう、よくよく聞くとね、家に1人だから一食だけでも人のいるところで食べたいって」

「寂しかったんですね」

「そうなの、でも毎日はもったいないって言ったら、じゃあ一緒にご飯食べてほしいって言われてね」

「いきなりですか?大胆ですね」

「元々顔見知りだったの、兄の同級生でね」

「それで一緒にご飯食べたんですか?」

「うん、可哀想になってね…私も兄と2人で住んでたから、1人で食べるのが寂しいのもわかるし…家に呼んで一緒に食べるうちに気づいたら定食屋じゃなくて家に居着いちゃって」

「…で付き合うようになったんですか?」

「そう…そのうち兄が結婚することになってね。新婚のじゃましたくないって言ったら、うちに来たらいいよって言ってくれて…」

「…結婚したんですか?」

「仕事が起動に乗ってからね。でもそうなると主人は忙しくて、子供ができて何不自由なく生活はできてたけど、あの子にとってはそこがスタートだったから…それが当たり前に思ってしまったのね…そんな風に育ててしまったのは親の責任だわ」

「…そんなこと…」

「小さかった勇太が大きくなって、莉緒ちゃんを連れて来た時嬉しくてね。病院なのに2人ではしゃいでしまって…あとで看護師さんに注意されたのよ、病人なんですからあんまり興奮しないようにって」

「私もお二人にお会いして、すごく嬉しかったです」

「もう一度莉緒ちゃんに会いたいって思って、ご招待したのにそれが莉緒ちゃんを苦しめて、人生を狂わせてしまうなんて……」

「…確かに、辛いこともありました。でも今の仕事に出会えて、勇太さんにも再会できて…良かったと思ってます」

「ありがとう、そんな風に言ってくれて…。この間、熱のある莉緒ちゃんを連れて勇太が来た時はただただ驚いたの…ふたりは別れたと聞いてたから。でも、これまでの話を聞いて、息子への怒りでどうにかなりそうだったわ。主人とどうすればいいか話して、私達はどんなことをしてもふたりを守ることにしたの」

 おばあちゃんの力強い言葉の後、応接室の扉がノックされ、秘書の方がやってきた。

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