第44話 祖父と親父と俺

 年末の仕事に加えて、莉緒と連絡取れないのは思うよりもきつかった。それでも真木さんが電話を切る時に言ってくれた言葉を信じて待つしかなかった。

「莉緒ちゃんは神原様のことを大事に思ってますよ」

 どこを見て、そう言ってくれたのかは聞けなかったけれど、近くにいる真木さんの言葉は心強かった。

 

 仕事納めの日、出社するとすぐ社長室に呼ばれた。行きたくはなかったが莉緒のこと、麗衣ちゃんのことを文句言ってやろうと社長室に向かうとフロア中に親父の怒声が響いてた。

「どうして相談もなく決めたんですか!」


 秘書室の人間が俺に気づいて、返事を待たずにドアを開けた。

「誰が入っていいと言った!」

 いきなり入ってきた俺に怒りをぶつけると部屋にいたもう一人の人間が窘めた。

「私が勇太を呼んだんだ、来たら部屋に入れるように言ってあった」

「じいちゃん…」

「勇太、朝から悪いな」

「…いや、大丈夫だけど…どうしたの?」

「一応、会長としての仕事をしようと思ってな」

「会長として…?」

 親父に代替わりした時、仕事のほとんどを親父に渡して、ほぼ会社に出てくることはなかった祖父がいることに驚いてると親父が口を挟む。

「社長は私です」

「ああ、だが会長は社長が間違ってる時は正さないといけないんだ」

「…」

「親としてもな…」

「何を正すんですか、間違ったことは何も…」

「勇太のことだ…心当たりがあるだろう。そして、お前のやり方は間違っている」

「何が間違ってると言うのですか、親として子どもに出来うる限りのことをしたまでです」

「恋人と別れさせてまでも?その子の未来を奪ってまで別れさせる権利がお前にあるというのか?」

「それが正しいなら、あります!」

「それがすでに間違ってることに気づかないのであれば、私の教育が間違ってたと言うことだ」

 親父に言い放つ祖父の顔は諦めにも似た悲しい顔をしていた。

「勇太すまなかったね、莉緒ちゃんにもたくさん辛い思いをさせてしまって、どう償えばいいか…とにかく間違ったものを一つずつ正そう」

「父さんにその権限はないはずです」

「ないかもしれんな、だが社長に任せていた仕事を会長に戻すことはできる、今のお前には冷却期間が必要だ」

「そんな…」


「さあ会長として、仕事をしよう。勇太、今任せている仕事に専念するために北海道に行ってもらえるか?」

 祖父からの急な提案に戸惑うばかりだった。



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