第40話 嵐の前

 休みの日、疲れよりも昨日の余韻で幸せな朝を迎えた。洗濯をして、朝ご飯を食べたら、勇太に何かプレゼントをと考えて街に出てみた。クリスマスの終わった街は、急に年の瀬を感じるディスプレイに変わっていて、ゆっくりとした時間のはずなのに慌ただしさを感じてしまう。店頭に飾られてたマフラーの色に惹かれて、店に入ろうとした時、電話がなった。知らない番号からの電話に一瞬迷ったけれど、長く鳴るコール音が止む気配もなくて、諦めて電話に出た。


  

 遅くまで一緒にいて、帰ってからも戻ってきた彼女との時間を思い出していたら、出社する時間になっていた。いつもより少し遅めに会社に着くと社内の雰囲気が違っていて、どことなくみんなが一歩引いて様子をうかがってる。

「神原さん、どういうことですか!!」

 部署に着くと朝の挨拶も無しに高橋が珍しく俺に食ってかかってきた。

「高橋どうしたんだよ、なんで怒ってんの?」

 昨日、莉緒との食事ができたことのお礼をLINEで知らせると、遅い時間にもかかわらず、大喜びのスタンプを送ってきてくれた高橋が何に怒ってるのか見当もつかない。

「結婚するんですか?」

「なんだよ、急だな、莉緒と?」

「違いますよ、西園グループのご令嬢とですよ」

「何言ってんだよ」

「週刊誌の見出しになってます」

 朝の会社の雰囲気と違和感の原因がわかった。高橋の乗った電車の中吊りに"年明け神原グループご子息と西園グループご令嬢結婚か!?"と書かれてあったらしい。

「根も葉もない噂だよ」

「それでも根拠なしにあんな記事出します?知らない人が記事読めば信じるだろうし、莉緒さんもいい気持ちにはならないでしょ」

 高橋の言うことはもっともで莉緒が記事を見て、また傷つくことを想像するだけで胸が痛む。

「ありがと、高橋」

 高橋に礼を言って、噂の元凶であろう場所へ向かった。


 社長室に向かうと秘書室の人間が慌ただしく動いてる。俺を見て、何人かが驚いていたが室長は動じず、一礼して用件を聞いてきた。記事の件を伝えると、こちらには何の連絡も来ていないので問い合わせをしているところだと言う。埒が明かないので社長に会いたいと言うと、今日は大阪出張で1日戻ってこないと言われ、追い出されてしまった。


 誤解のないように莉緒にメッセージを入れても既読にならず、電話も繋がらないままであの時の嫌な思い出が蘇る。仕事がほとんど手につかない1日が終わった。社長は夕方には自宅に戻るという室長の言葉を信じて、すぐに実家に向かった。






 

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