第41話 わかりあえない
実家に戻ると母親が忙しそうに食事の準備をしていた。
「おかえり、早く言ってくれれば準備しといたのに少し待ってね」
しばらくぶりに帰った理由を聞かないのは、親父から何かを聞かされてるんだと思うとそれ以上何も言えないでいた。
「親父は?」
「部屋じゃないかしら」
二階にある父の部屋に向かおうと振り返るとリビングに親父が入ってきた。
「ちょうど良かった、呼ぼうと思っていたんだ。母さんビールを頼む、お前も飲むだろう」
親父に言われて、母さんがあわててビールの準備をする。
「親父、どういうこと?」
「いいから、座れ」
「あの記事、親父だろ」
「何のことだ」
「とぼけんなよ、秘書室のヤツの態度見ればわかんだろ」
「何だと言うんだ」
「でたらめなことを載せるなよ」
「でたらめではないだろ、年明けには盛大に発表するつもりだ」
「断ったはずだけど」
「それはお前達だけでな」
「当人同士で十分だろ、子どもじゃないんだから」
「そうだな、子どもじゃないからわかるはずだ、約束と言うものが…」
母親が運んできたビールを一口飲んでまた同じ圧で話しだす。
「西園様はお前のことをえらく気に入っててな、お嬢さんの気持ちを汲んで一緒になって欲しいと言ってくださってる」
「はぁー?麗衣ちゃんには納得してもらったよ、そこ無視っておかしいだろ」
「西園様が言うには、麗衣ちゃんは我慢してる、あれだけお前のことを好きだと言ってたのに、急に結婚をやめると言ってからは無理したように笑ってると」
「それはちゃんとわかってもらったからで」
「あの女のことを言ったからだろう、余計な気を使わせて、麗衣ちゃんの優しさにつけ込んでるのはお前だ」
何もわかってない、そしてわかろうとしない親父に、何を言っても無駄だとわかっていても親だからと少しの期待をいつも持ってしまう。そして裏切られて終わりなのにまた同じことを繰り返してきた。そのせいで莉緒を傷つけて、挙句の果てにあの女と言う親父を許すことができない自分がいた。
「親父が言う価値観はわからない、それでも親だから…仕方ないって諦めてた」
「仕方ないってなんだ!全部お前のためを思ってのことだ!」
「俺の幸せが何かって考えたことある?家とか会社じゃなく俺自身の」
「…それは考えて…」
「考えてくれてるなら、こんなことしないよ。少なくとも俺は好きな人と結婚したい。そんな細やかな望みさえ叶わないなら結婚なんてしたくない」
「西園様の何がだめなんだ、申し分ないじゃないか」
「俺の話聞いてた?もういいよ、親父が考えを変えないなら、これ以上何を言っても無駄だよね」
「年明けの発表は決まったことだ、変えるつもりはない!そのつもりでいろ」
俺の背中に投げつけるように言葉をぶつける親父の顔を見ることもなく、部屋をでた。心配そうに見つめる母さんに"ごめん"とだけ言って実家を後にした。帰り道、何度も莉緒に電話をかけるのに繋がらないことが俺をより一層不安にさせた。
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