第39話 クリスマスのディナー

 クリスマスの日曜は、土曜ほどではないけれどクリスマスパーティーや結婚式があって、ほとんど椅子に座れない一日だった。それでも昨日よりは少し早めに終われて、真木さんからクリスマスプレゼントのクッキーをもらった。

「お疲れ様、ゆっくり休んでね」

「…はい、クッキーありがとうございます…あの、今日はおうちでパーティーですか?」

「この時間だともう無理なんだよね、パーティーは旦那主導でもう終わってるはず、莉緒ちゃんは神原様と会うの?」

「多分、迎えに来てくれてると…」

「うん、良かった。自分が幸せでいること悪いと思っちゃだめだよ」

「…はい」

「休み明けに教えてね」

「…はい」

 

 待ってると言ってくれた勇太に終わったことをLINEすると、もう待ってるよとすぐに返事が来た。

 昨日と同じ場所に立っている勇太にも慣れて、少ない言葉で車に乗り込んだ。

「おつかれ」

「うん、来てくれてありがとう」

「明日休みだよね?」

「うん、勇太は仕事でしょ、早く帰らないと」

「大丈夫、心配しないで」

「心配しないでって言っても…心配でしょ」

「うん、それは嬉しいけど、せっかくのクリスマス、あと少しだけだから一緒にいよう」

 一度言い出したら聞かないのは昔からだから、それ以上何も言わず彼に従う。車通りの少なくなった街を少し走ると小さいお店の前で車が止まった。

「降りよう」

 促されて降りるとそこはフレンチのレストランだった。

「夜ご飯まだだよね、軽めの食事をお願いしてる」

 3組も入ればいっぱいになりそうなレストランの席はすでに2つ埋まっていて、残りの一つに通された。

「お待ちしておりました、神原様」

「今日は急にすみません」

「こちらこそ、言っていただいて助かりました」

 予約と書いてある席に通されて、食前酒として出されたノンアルコールのビールがのどを潤した。

「飲めばいいのに」

「勇太が飲めないのにいいよ、それよりこんな素敵な店予約してたの?」

 急に予約して取れる店じゃないことは雰囲気をみればわかる。しかもメニューは事前打ち合わせ、一日に3組までと書いてある。

「俺の後輩に高橋っているんだ。ここは高橋の伯父さんがやってる店なんだ」

「知り合いだからって簡単に予約できる感じしないけど…」

「うん、ほんとは高橋が幼なじみと来ようとして予約してたんだけど…」

「うん」

「彼女がインフルエンザでキャンセルすることになって、もしよければって」

「そうなんだ、高橋くん残念だね」

「そうでもないよ、ずっと幼なじみのままだったんだけど、このレストランに誘うためにクリスマス前に告白してうまくいったんだからいいんじゃない?」

「なんか勇太が嬉しそう」

「昔の俺みたいに意識してるのに告白できなくて、ライバルもいて、焦ってたから、結果良かったなとは思ってるよ」

 

 高橋からの提案が3日前で、急遽打ち合わせしてもらって、今日の日を迎えた。どうなるかわからないけど、一か八かの賭けで連れてこれて良かった。遅い時間になることも伝えて、おすすめの優しい食事のコースをお願いした。食事を始めると先に食べていた二組が終えて俺たちだけになった。

「すみません、遅い時間から」

 莉緒が申し訳なさそうに謝ると

「お気になさらないでください、夜中からスタートの方もいらっしゃいますのでこの時間なら早いほうですよ」

と笑って答えてくれた。

 デザートのプレートに書かれた2人の名前とMerry Christmasの言葉に幸せを感じて、食事を終えると店主の方が挨拶に来た。

「本日はご来店ありがとうございました。お食事はいかがでしたでしょうか?」

「とても美味しかったです」

 莉緒の言葉とともに俺もうなずく。

「私共はお客様のご要望を最大限にお聞きして料理を作りますので今日の料理は神原様のお気持ちだと思ってください」

 

 車に戻ると、週末の忙しさを癒す食事を考えてくれたこととクリスマスに会う時間を作ってくれたことへのお礼を、もう一度勇太に伝えた。

「ごめんね、私プレゼント何も用意してなくて」

「仕事忙しいの乗り越えて良かったね。俺は、一緒にご飯食べれたからそれがプレゼントだよ」

 屈託のない笑顔にさらに癒やされたクリスマスになった。




 

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