第38話 忙しいイブの日
クリスマスイブが土曜日の今年は、早いうちから宿泊が埋まり、大きな宴会場であるディナーショーの準備で真木さん含め私達も、朝から忙しくしていた。
「莉緒ちゃん、交代でお昼休憩しとこう」
忙しい日は真木さんが準備してくれたお昼を、食べれる時に交代でというのが決まっていて、お礼を言って休憩に行こうとすると
「今日のお昼は神原様からだから、莉緒ちゃんからもお礼言っといて」
「えっ、はい」
予想してなかった内容だけれど、真木さんがさらっと言うのでそれ以上聞けず休憩に入った。
「今日のお昼なんかいつもと違ってたね」
岩名さんが作業しながら昼食の話題にふれると、真木さんが
「そうでしょ、差し入れでもらったの。すごい美味しかったでしょ」
私をちらっと見て笑う
「夜まで頑張れそうです」
岩名さんの言葉通り、終わりまでなんとか乗り切って、従業員出口を出る頃には体はくたくたになっていた。
「莉緒」
人の少ない時間だけに、名前を呼ぶ声が響く。当たり前のように勇太が立っていて、疲れもあって声もでなかった。
「送るよ、乗って」
近くに停めてあった車に乗せてもらって、やっと一息ついた。
「ありがとう」
「今日は素直だね」
車の中の暖かさに頬が緩む。
「差し入れ、美味しかった」
「良かった〜何がいいかわからなくて、会社の若いやつに聞いたんだ」
「でも、急に差し入れってなんで?」
「真木さんにお礼かな、昨日莉緒に会わせてくれただろ。今日は昼もゆっくり取れないぐらいすごく忙しいって聞いたから、みんなで食べれるものがいいかなって」
昨日、会わせてくれた真木さんの気持ちには感謝しかない。忙しくてお礼も何も言ってないけど、今日の態度を見ると察してくれていると思う。
「お腹すいてない?」
「ペコペコだけどお店による元気もないんだ、家まで送ってもらっていい?」
「これ食べて」
袋には、見覚えのある形の大きいおにぎりが一つ入ってた。
「これ…もしかして手作り?」
「うん、莉緒がよく作ってくれてたおにぎり、見様見真似で作って見た」
社会人になって忙しくなると、食べなくなって痩せていく勇太を見かねて、時々おにぎりを作って渡していた。お弁当だと面倒だと言われて、当時流行っていたおにぎりの中におかずを入れて片手で食べられるものを作っていた。
「懐かしい、ありがとう」
おにぎりの中は唐揚げと玉子焼きと佃煮が入ってた。
「美味しかった。料理、上手になったんじゃない?」
「愛の力かな~というのは冗談で、ばあちゃんに手伝ってもらったから、うまいはず」
「フフ、それなら納得、おばあちゃんにお礼言っといて」
「わかった、明日も迎えに来ていい?」
「いいけど、今日と同じくらい遅いと思うよ?次の日仕事なのに大丈夫?」
「大丈夫。待っとくから」
そう言い終えると車がマンションの前についていた。
「頑張りすぎると疲れちゃうよ、無理する必要ないんだから…」
「無理してない…浮かれてるだけだから気にしないで」
照れたように言って、帰って行く勇太の車を見送った。
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