第37話 もう一度、告白

 昔、お互いの気持ちを伝えた日、二人で帰る道は、恥ずかしさとぎこちなさで言葉が出ないままだった。

 勇太のマンションは学校のすぐそばにあって、私が乗る電車の駅はその先にあったから、付き合う前は勇太のマンションの前でいつも別れてた。

 告白した日は、駅の前まで送ってもらうと、何となく離れるのが寂しくなって、二人でもう少しだけ歩くことにした。

 どれくらい歩いたのか、気づいたら小さな教会を見つけた。まだ始まったばかりの二人には教会=結婚なんて結びつかなかったけど、小さな偶然にお互い運命みたいなものを感じていたのを覚えてる。

 

 足を止めた場所に、あの時の教会があった。遠慮がちについているイルミネーションで、かろうじてわかる外観は、少し古くなってるけど、変わらないままに…。

「覚えてる?」

「うん」

 忘れるわけない…言いかけた言葉は飲み込んだ。

「あの日、莉緒といっしょに見つけた教会」

「うん」

「莉緒がいなくなって、莉緒のいそうな所を片っ端から探したんだ」

「…」

「でも、どこにもいなくて。いるはずのない大学や歩いた場所まで思い出しながら探した」

 勇太の表情が見えないけれど、言葉から、その時の必死さが伝わってくる。

「ここにも何度も来た、偶然見つけた場所だったから、探したけど…」

 

「莉緒」

「…」

「俺は周りが見えてなかったよな、親父のこともわかってなかった」

「…そんなことな…」

「莉緒に再会して、もう一度って思っても無理だって言われて、わかってるのに落ち込んだ」

「…」

「どうしていいか分からないけど、このままじゃだめなこともわかってる」

「…」

「それでも、ここを二人で見つけた時の気持ちと変わらないなら考えてほしい」

「考える…?」

「俺とのこと、二人のこと……」

「二人のこと…」

「クリアにするって言っても信用できないと思う…けど、信じてほしい」

「…」

 黙ったままの私の前に勇太が立つ


「好きです…俺の彼女になってください」

 あの日と同じ言葉で告白してくれる勇太がここにいる。

「…私でいいの…?」

「お前以外ありえないけど…?」

 少し前まで、否定していた自分の気持ちは、勇太の言葉が溶かしてしまった。だからといって不安が取り除けるわけでもない…それでも信じたい。あの時、お父さんの言葉だけで、勇太を信じなかった自分を後悔したから…。

「お願い…します」

 言葉を言い終える前に抱きしめられた。

「良かった…ありがとう莉緒」

「…うん」

 車へ帰る道、並んで歩いてると不意に差し出された勇太の左手、迷わず右手を出した私と目があって笑うとその手を強く握った。

 

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