第35話 勇太の決意
「莉緒!」
ホテルからでてすぐ、腕を掴まれて名前を呼ばれる。いるはずのない人がいることに驚いて固まる私を気にもせず、どこかへ連れて行こうとする。
「勇太?」
「いいから、車まで行こ」
答えたわけでもないのに連れて行かれる形で車まで来てしまった。
「あの、どうして…」
「いいから乗って」
結局勢いに負けて車に乗ると、すぐに発車した。
「結婚はなくなったよ、ちゃんと納得してもらった」
「うん…」
「驚かないの?」
「聞いた…から…」
「えっ」
「今日、ホテルに西園様が…」
「何か言われた?」
「…勇太の気持ちを受け止めて上げてほしいって」
大好きな人を諦める事だけでも辛いのに大好きな人の気持ちまで考える事ができる西園様はどれだけ優しいんだろう。
「そうか…彼女がそんな事を…」
彼が大きな公園の駐車場に車を停めた。
「真木さんに莉緒と話したいって電話入れたら、莉緒を今から帰らせるから、すぐに来れるかって」
「真木さんが…?」
「莉緒のことを思ってくれる人が多すぎて困るな」
「多すぎって、真木さんだけじゃ…」
「俺のじいちゃんとばあちゃんもな」
「おじいちゃんとおばあちゃん?」
「具合悪いときに行って以来、連れて来いってうるさくて、落ち着くまで待ってって言ってるのに聞いてくれないんだよ」
「うん」
勇太を含めて、私を思ってくれる人がいることが単純に嬉しい。そう伝えたいけれど、今までのことを考えると素直になるのは難しかった。
「…毎日連絡くれなくていいのに」
「莉緒が俺を忘れないように、これでも必死なんだよ」
勇太のことを忘れられたら、こんなに苦しむことはなかったのに…なんて本人を目の前に言えるわけもなく、ただ笑うしかない。
「嫌だった?」
「…別にそんなことは…でも大変じゃ」
「良かった〜、嫌じゃなくて」
いたずらっ子のように笑う勇太は、付き合っていた頃と変わらない…勇太のペースに乗せられて進む会話に心地よさを感じてしまう。
「今すぐが無理なのはわかってる」
急に真面目な顔で切り出す。
「でも諦めるつもりはないから覚悟してね」
「勇太…」
「親父のこともクリアにするから心配しないで」
「…」
「今日はそれを伝えたかった…あと…」
「あと…?」
「ご飯行こ!」
満面の笑みの勇太がそこにいた。
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