第34話 西園様の告白
勇太のおじいちゃん家からマンションに戻って、すぐ仕事にも復帰した。真木さんは何も聞かず、元気になったなら良かったと言ってくれた。岩名さんによると、あれ以来、西園様、神原様ともに連絡は無く、静かな状態が続いているらしい。嵐の前の静けさにも思えたがおじいちゃんの言葉を信じるなら、このまま話が消滅するんだろうか。とてもそんなふうには思えないけれど、私にできることは何もなかったから、忙しい日常をすごすだけだった。
一つ変わったのは、勇太が毎日連絡してくるようになった。メールだったりLINEだったり、電話も出ないとわかっていて、印をつけるようにかけてくる。返事をするわけじゃない、言葉を交わすわけでもないのに、つながっていると言われているようで複雑な気持ちになっていた。
「莉緒ちゃん、今日西園様がお見えになるから同席で」
明日がクリスマスイブで朝から忙しい真木さんが一言言うために戻ってきて、またすぐ出ていってしまった。
「今日はお忙しいのにすみません」
部屋に入ってすぐ西園様が声を発した。
「勇太さんに、はっきり断られて、それでもお父様は大丈夫って言ってくださってたんです。でも勇太さんが私が納得するまで毎日家に来てくれて…」
言葉に詰まりながら、それでも続ける西園様の目には涙が溜まっている。
「悪いことをしたのは、はっきりしなかった自分で私は悪くない……でも好きでもないのに結婚するのは違うからわかってほしいって。好きな人と嫌いで別れたわけじゃなくて、自分が不甲斐なくて相手に辛い思いをさせたから、それを取り戻さないといけないって」
「西園様はそれでよろしいんですか?」
真木さんが静かに聞く。
「良くはないです、でも…私…勇太さんが好きなんです。好きな人がこんなに思ってる人がいて、勝てないなって。無理矢理結婚したとしても、大好きな人を苦しめてしまうんだなって思ったら、辛くなりました」
「西園様…」
「勇太さんを幸せにできるのは自分だなんて独りよがりなことを考えて…ばかですよね。はっきりと勇太さんの言葉を聞いてわかりました。だから…白波さん、勇太さんの気持ちをちゃんと受け止めて上げてくださいね」
突然の言葉に驚いていると西園様がさらに話を続ける。
「勇太さんの好きな人は、白波さんだって正直に教えてくれました。でも傷つけたから、信じてもらえない…それでも頑張りたいからって言ってました」
「今日の話は白波さんもって言われてたの。黙っててごめんね」
西園様と真木さんの優しい笑顔が向けられて戸惑うしかなかった。
「勇太さんのお父様が何を言っても私はこの結婚をすることはないです。それを今日伝えに来たんです」
西園様が帰られた後、真木さんに今日はもう帰っていいと言われた。
「明日も仕事だから今日はゆっくりして」
と意味ありげに笑う真木さんに挨拶をしてホテルを出た。
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