第32話 夢じゃなかった
どれぐらい眠ったんだろう…。まだ重たい頭とだるい体…こんなに熱がでたのはいつぐらいぶりだろう…思い出せない。
いつの間に横になっていたのか…断片的にある記憶が本当か夢かもわからない…ぼんやりとそんなことを考えながら、周りを見ると、見覚えのないものばかりなのに気がついた…。
眠ってる間に見ていたと思ってた夢…それが夢じゃなかった…?勇太のお父さんに責められたところまではなんとか思い出せるのに、そこからの記憶と呼べるものが曖昧で夢との区別がつかない。体を起こそうとした時、部屋の扉が開いた。
「まだ寝てなきゃだめだよ。熱下がってないから」
トレイに乗せたコップと飲み物をサイドテーブルに置いて、勇太はベッドに腰をかけた。
「…わたし…あの…どうして…」
「覚えてない?よね。いいから、寝てて」
状況を飲み込めてない彼女にあえて考えさせないようにそう言うと、ベッドに横になったままの莉緒は布団をかぶってしまった。
「ごめんなさい…迷惑かけちゃったんだね…」
「迷惑なんてかけてないよ。ただ心配だから、家に連れて帰っただけ」
慌てたように布団をはいだ莉緒が、また体を起こそうとする。
「すぐ帰るから…大丈夫だから」
家という言葉に反応したのは、親父のせいもあるんだろう。起こそうとした体が熱のせいでふらついたのを体ごと受け止めた。
「実家じゃないから安心していいよ。じいちゃん家だから」
「でも、そんな…」
「こんなに熱があって、ほっとけるわけないだろ。まぁ本当は莉緒の部屋番号わからないし、熱高すぎて心配だったから、じいちゃん家に避難したんだ。ここならかかりつけの先生が来てくれると思って」
「…かかりつけ…すごいね」
「前に入院してから、心配だから何かあった時に来てくれる先生をお願いしてるんだ。病院開いてる時間じゃなかったから、無理言ってお願いした」
抱きしめたままの莉緒にゆっくりと話し始める。
「過労と心労、両方だろうって。あとあんまり食事ができてないんじゃないかって」
勇太に再会してから、いろいろ考えすぎて、余計仕事に没頭しようとしてた。食事を抜くこともあったし、眠れない夜もあった、自分のせいで具合が悪くなったのだから何も言えない。
「莉緒?何も考えずにゆっくり休んで…熱下がらないと家に帰さないよ」
「…でも仕事が…」
「真木さんには、さっき連絡入れた。熱のこと伝えたら、ちゃんと休んで、ちゃんと治してからでておいでって。ふらふらのままじゃお客様の対応できないからって」
「…うん」
「それから…辛かったよねって。悩んでるのは気づいてたけど、言ってくれるのを待ってたから、余計辛い目に合わせてしまって、ごめんなさいって」
「そんな…」
「いい先輩だね」
「うん」
「だから気にせず、ゆっくりして。なんか食べれるようだったら持ってくるよ」
「うん…今はいい…勇太…ありがとう」
抱きしめられていた体がゆっくりと離れて、ベッドにもう一度横たわると、熱の疲れかすぐにまぶたが閉じていった。
眠ってる間ずっと手を握ってくれている夢をみたような気がして目を開けるとベッドに体半分預けて眠っている勇太が、しっかりと手を握ってくれていた。その手に重ねるようにもう一方の手もそっと乗せる。眠ってる勇太を見るのは何年ぶりだろう…だめだとわかっててもつないだ手を離すことができなかった。少しだけ…ほんの少しだけ…この幸せに甘えたかった。
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