第31話 夢だけど

「ねえ、勇太、私が風邪引くと、すぐに勇太も風邪引いちゃうよね」

「うん、なんでだろう…うーん」

「もうわかってるよね。私のそばにべったりになるから、疲れで風邪引いちゃうんだよ。だから、今度風邪引いたら、こなくていいからね」

「やだよ。心配しすぎて余計病気になるだろ」

「でも、寝込むと長いのは勇太でしょ」

「俺が風邪引いたら、莉緒はどうする?」

「すぐ看病に行くよ」

「ハハ、言ってること矛盾してない?」

「矛盾?してないよ。だって病気の時、めっちゃ甘えん坊だから…私いないと何もできないし…」

「できるし」

「できないよ。水ー、ゼリー、おかゆ食べさせて〜ってね」

「そうだっけ?」

 そんな会話をしながら、2人で笑ってた日を思い出した。封印していた幸せな思い出は心の奥深くにあった…。いつかちゃんと忘れられるまでなんて…自分の感情も体調もコントロールもできないのに……。


 悲しい夢じゃなく…幸せな夢に涙が流れて目が覚めた。夢だけど幸せでまた涙が溢れて止まらなかった。

「泣かないで莉緒…」

 優しい声が聞こえた。

「…ゆた?」

 ぼんやりと見ていた視界に勇太があらわれた。夢の続きだからか優しく涙を拭ってくれる。夢だとわかってホッとしたような寂しいような気持ちの中で勇太が触れた手に手を重ねる。

「莉緒…しんどい?何か飲む?」

「ううん…大丈夫…」

「待ってて飲み物持ってくる」


「……いらない……そばにいて…どこにも行かないで…ゆた」

 半分閉じてる目でそう言うと、頬にあてていた俺の手に重ねられた彼女の熱い手がぎゅっと俺の手を握った。

「いるよ、そばに…ずっと莉緒のそばに」

 拒絶されたはずの莉緒の言葉は熱のせいだとわかっていても嬉しかった。熱の疲れでまた眠ってしまった彼女の横で寝顔をながめていた。

「ごめんな…莉緒」

 そんな言葉しかでてこなくて、情けなくて涙がでた。

 



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