第30話 正面対決

 掴まれていた腕が離されて、意識を失うように莉緒の体がゆっくりと倒れていった。これでもかというぐらい走って、なんとか莉緒の体を受け止めて、罵声を浴びせていた男を睨みつけた。

「親父、もう、やめてくれ」

「勇太、なんでここに」

「結婚やめるって言ってから、親父が何かすると思って。俺も馬鹿じゃないから、一度失敗したことは学習するよ」

 親父の秘書が人を雇って、俺の周りを探ってるとわかって、心配になって莉緒のホテルに電話をかけた。


「やっぱり、この女のせいなんだな」

「あの時も今も莉緒は何も悪くない」

「何を言ってるんだ、この女のせいでお嬢さんが不安がってるんだぞ」

「麗衣ちゃんには結婚できないって伝えたよ、納得はしてもらえなかったけど」

「だからお前とこの女とは…」

「不釣り合い?身の程?親父の言ってる意味がわからないよ」

「何を馬鹿なことを言ってるんだ。そんなんだから付きまとわれたりするんだ」

「昔も今も俺が好きなんだ、付きまとってるのは俺だよ」

「結婚を早めよう、そうすればお嬢さんの不安も無くなるだろう」

「どこまで行っても平行線だな」

 腕の中の莉緒が熱くて、心配でたまらない。


「親父のしたことは最低で最悪だよ。莉緒にしたことも家族を巻き込もうとしたことも全部許せない。そして今日、また莉緒を侮辱したことも許すつもりはないから」

「何を言ってるんだ。そんな女に関わってどうする!お前は俺の後を継いで会社を背負っていくんだ。グループの社員を守らなきゃいけないんだぞ」

「だから、何?俺の後?何がそんなに偉いの?会社を持ってることが?大勢の社員がいることが?社長だから?どれ一つとっても親父が作りあげたもんじゃないよね」

「それは…」

「偉いって言うなら、じいちゃんは偉いと思うよ。小さな商店から一代でグループ会社にまで大きくしたんだから。だけど、じいちゃんは莉緒をばかにしたりしなかった。いい子だって、勇太の嫁はいい子だなって喜んでくれたよ。何も知らない親父に悪く言われる筋合いはないから」

「…勇太…だけどな」

「状況見てわかんないかな、倒れてるよね?病院に連れて行きたいんだよ」

 まだ叫んでる親父を無視して、莉緒を抱きかかえた。

「親父、莉緒と莉緒の周りの人間に指一本でも触れたら、親父との縁を切る」

「え…勇太…」

「親父でも莉緒を傷つける奴は許さないから」

 言いたいことだけを言って、車に莉緒を寝かせると発進させた。



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