第28話 決断

 下から連絡があって、神原様をエレベーターまで迎えに行く。なんとなく気まずい空気のまま、応接室に通すとすぐに2人が現れた。

「何かあったんですか?」

 真木さんは、神原様のお父様が婚約パーティーを勝手にしようとしたのを西園様と二人で止めに行ったこと、聞いてもらえず、パーティーを決行しないといけない状況であることを伝えた。

「何がなんでも結婚させたいんですね」

「お伝えはしましたが、お父様がすると言われたら、主役がいなくてもパーティーはせざるを得ません」

 じっと考えていた勇太がおもむろにスマホを取り出すとどこかへ電話をかけ始めた。

「…親父、俺、麗衣ちゃんとは結婚できない…親父の言いたいことはそれだけなら、はっきり言うよ…好きな人がいる…これ以上やめてくれよ、この足で麗衣ちゃんの家にも行ってくるから…ああ、断ってくるんだよ」

 途切れ途切れに聞こえるお父様の怒鳴り声は私たちにも聞こえていて、真木さんも岩名さんも硬い表情のままうごけないでいた。

「親父の望む結婚は、俺の望む結婚ではないんだよ…」

 まだ怒鳴っているお父様の言葉を聞かずに電話を切った勇太は、私たちに深く頭を下げた。

「申し訳ありませんでした、改めて挨拶に来ます」

 そう言って席を立った。

「莉緒ちゃん、下までお願い」

 真木さんに言われてあわてて席を立った。

「悪かったな、迷惑かけて」

「迷惑なんて…でも大丈夫なの?」

「大丈夫と言いたいけど、大丈夫じゃないかもな…曖昧にしてきた罰だよ、しっかり謝ってくる」

 笑いながら言う勇太は、昔の勇太に見えた。エレベーター前に来ると

「ここでいいよ……また連絡する」

「えっ」

「全部済んでから…だからすぐじゃないけど」

「…」

「待っててほしい」

 返事のできない私の言葉を待たずに彼はエレベーターのドアを閉めた。下に降りていくエレベーターの光を見送りながら、急すぎる展開に放心状態だった

「下まで送らなかったんだ」

 真木さんと話してた岩名さんが振り返って言う。

「はい」

「もう帰っていいよ、遅くまでごめんね」

 真木さんに言われ、もう一度帰り支度を始めた。




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