第12話 偶然の確率

 北海道の仕事は、4日の予定で、同行した高木が心配するほど、仕事に没頭した。そうでもしないと、彼女のことを考えすぎて収拾がつかなくなるから、前倒しで仕事を片付けたら、2日目の昼にはほとんど終わっていた。

「神原さん、何かありました?」

 昼食を終えて、コーヒーを飲んでる時に話題を変えて、聞いてきた。

「何が?」

「うーん、何って言われるとわかんないんですけど…仕事の詰め込み方おかしいし、なんか空気感違うっていうか…」

 妙に勘の鋭い高木に気持ちを見抜かれて、恥ずかしくなった。

「もしかして好きな人できたとか?」

「はぁ?何言ってんだ、お前」

「冗談ですよ。あれ?当たってました?」

「そんなんじゃないよ」

「あっ、さっき柴崎教授にアポイントをお願いしたら、講義の休みの間ならって言ってくれたんです!」

「えっ、ずっと無理って言ってなかった?」

「そうなんですけど、今日はいつもより機嫌が良くて、何かいいことあったんですかね、とにかくラッキーです」

「じゃあ、すぐ行こう、気が変わらないうちに」


 タクシーで大学近くまで行くと、街全体が大学の雰囲気に包まれていて、一気に学生に戻ったような気分になる。

「今から講義らしいんで、教授の部屋の近くにあるラウンジで待つようにって」

 背広姿で学生の中に交ざるのは、違和感を覚えてしまう。ただ少ないながらも背広の子たちもいて、極端に浮くようなことはなかった。

「少し前までは、あんな感じだったんですかね」

「俺に言わせたら、高木は今もあんな感じだけどな」

「えっ、それっておこちゃまってことですか?」

「お前、おこちゃまって…まあ若いってことだよ」

「神原さんも若いじゃないですか」

「いや、俺はあんなばか騒ぎ、もう無理だわ」

 少し離れた席ではしゃいでる子たちを見ながら、彼女と過ごした大学の日々を思いだしていた。


「あれ?神原?」

 ラウンジの入口から、歩いてきた人に声をかけられた。

「えっ、えー!白川教授!?なんで、ここにいるんですか?」

「それは、こっちのセリフだよ。なんだ仕事か?」

 お世話になったゼミの教授と北海道で偶然会う確率は何%だろう。

「もしかして柴のとこに来るのって、お前らか?」

「柴って…柴崎教授ですか?」

「はい、今日会ってもらえることになって」

 高木が答えると白川教授が笑って

「そうか〜いや、今日、少し話してる時に電話かかってきて、会ってほしいってしつこいんだって言うから、一度ぐらい会ってやれよって言ったんだよ」

「いつも断られて、急に会ってくれるって言うんで慌てて来たんです。白川教授のおかげだったんですね。ありがとうございます、助かりました。こっちは同僚の高木です」

 高木が一礼した。

「高木です!はじめまして!神原さんの恩師なんですね、助かりました…何度電話しても"時間がない“って断られてばかりで」

「ハハ、まあ忙しいのは本当だよ。北海道の企業のアドバイザーもしてるし、東京の大学との合同研究とか論文とか、体がいくつあっても足りないって言ってたから」

白川教授は、豪快に笑いながら、俺の隣に腰を掛けた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る