第10話 不釣り合い
勇太から、退院したおじいちゃんが、お見舞いのお礼に、家でご飯でもと招待を受けた。一度は断ったけど、どうしてもと言われて、行くことを決めた。
緊張しながら訪ねた勇太の実家は、驚くほど大きなお家だった。持ってきた手土産を落としそうになって、あたふたしてる私を見て笑う勇太は、古いだけの家だからって言ったけど、場所とか敷地とか考えたら、それだけじゃないのは、無知な私でもわかることだった。おばあちゃんの好物だって教えてもらったお菓子を出すのさえ躊躇していた。
「莉緒ちゃん、勇太、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそお招きありがとうございます」
「ばあちゃん、これ莉緒から」
「あら、私の大好物のもなか、嬉しいわ!さぁ、あがってちょうだい」
優しいお二人が気を遣ってくれて、会うのが初めてだった勇太のご両親もにこやかに迎えてくれた…はずだった。
訪問からしばらくして、会社に勇太のお父さんの秘書だと言う人から電話がかかってきた。話がしたいと言われて、会社帰りにお父さんの会社にうかがうことになった。
「待たせたね、会議が長引いてしまって」
「いえ、あの先日はおじゃまさせていただいて、ありがとうございました。とても楽しかったです」
「あれは、父さんと母さんがどうしてもってきかなくてね…」
歯切れの悪い言い方が、自分は呼びたくなかったと言われてるようで、下を向いて黙っていた。
「白波さんでしたね、勇太とはどういうつもりでお付き合いを?」
「…どういうつもりですか?」
「結婚とかは?」
「…それは…お互いの気持ちが合えば」
「そうですか…お互いの…、では単刀直入に言わせてもらいます」
「…はい」
「結婚はないと思っていただきたい」
「えっ、それはどういう…」
「言葉の通り、勇太とあなたの結婚はないと思っていただきたい」
「………」
「失礼ですが、あなたのことをいろいろ調べさせてもらいました。病気でお父様を亡くされてから、お母様が女手一つであなたと弟さんを育てられた」
「…はい」
「大学も奨学金で卒業され、弟さんはまだ在学中…」
「はい」
言い終わると、お父さんは、大きな溜息をついて、椅子から立ち上がった。
「この会社は勇太の祖父が一代で築いたものです。この会社もビルも家も、ゆくゆくは勇太のものになります。グループの人間を含めると何千人もの人間の上に立ち、会社を経営していかなければならない」
「………」
「恥ずかしくないように育ててきました。環境、知識、教養、人脈…どこをとっても大丈夫なように。ただ親の思うようにはいかないもので、幼稚舎から通っていた学校の大学には行かず、国立の大学に入学してしまった。会社も勝手に決めて、自分の力を試したいと…そしてあなただ」
「…わたしですか?」
「勇太には、ちゃんとしたお嬢さんをと思っています。すでに何人かお声もかけていただいて、話を進めている所です」
「…それは、つまり…勇太さんと別れろということですか?」
「そう受け取ってもらって結構」
「…彼は…勇太さんは知ってるんですか?」
「いいや、あいつは君といずれ結婚したいと言っていた…だから、すまないが君の方から身を引いてもらいたい」
「それは、できません」
「そうだろう…ただ知っといてもらいたい。君と勇太では何もかもが不釣り合いだということを」
「…不釣り合い…」
「ああ、不釣り合いだ。そして似合わない。勇太の未来に君は似つかわしくない」
お父さんが言い放った言葉は、正面から私に直撃した。
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