第7話 落とした涙
「麗衣ちゃんのドレス素敵ね〜。2人並ぶとお人形みたいで可愛いわ」
「勇太さん、素敵です」
「もう麗依ったら、でも本当2人共モデルさんみたいね」
周りにいるスタッフ達も頷いて、口々に褒めている。その声が止むと衣装チェンジのために彼が戻ってきた。
「白波さん、銀色のタキシードにチェンジなので、シャツそのままで上着とタイ外してください」
そう言うと並んでる衣装の奥に消えてしまった。
「…失礼します…」
後ろに周りこんで、上着を取ろうと肩のあたりに手を伸ばすと、私が取りやすいように少しかがんだ姿勢を保ってくれている。彼の肩に触れてしまうことに戸惑っていると
「…莉緒?…」
「申し訳ありません」
かけられた声にハッとして、慌てて上着を取って、彼の前に回り込んだ。シャツの襟に隠れているアスコットタイのホックを外そうと首元に伸ばした私の手が震えていた。
タイのホックを外すために伸びた彼女の手が、襟の手前で止まって、かすかに震えている。俺の目を見ないように首元に合わせた目が静かにうるんで、頬に一筋涙が流れた。
「莉緒?」
名前を呼ぶとゆっくりと顔が上がり、さっきまで一度も会わなかった目線が合わさった。そして彼女の反対の頬から、もう一筋涙が流れた。
彼女の涙がなんなのか、聞く権利も拭う権利も、礼装に身を包んだ今の俺には無いけれど、自然に手が彼女の頬の涙を拭っていた。
「…ごめんなさい…私…」
涙に気づいて、慌てた彼女は、一歩後ろに下がると出ていってしまった。
彼の手の暖かさで自分の涙に気付くなんて…
忘れたなんて嘘をつくつもりはない…忘れようと努力して、それでも忘れられなかっただけ。もし出会ったら、知らないフリをしようと心に決めていたのに、蓋をしたはずの気持ちがあんなに簡単に…涙となって現れるなんて、思わなかった。
本当に2人で並ぶとお人形のようだった。私じゃ、だめで…あの子なら、お似合いと言ってもらえる…そんな理不尽な世界がちゃんとあって、…今も、それは何も変わらないままだった。
ー 不釣り合い ー
あの時、言い放たれた言葉がもう一度、私の心に影を落とす。
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